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マスネ「ウェルテル」 [オペラ映像]

51HF0ACSRNL._SL500_AA300_.jpgゲーテの名著『若きウェルテルの悩み』と言っても題名を知っているだけで、読んだことはありません。当時この小説の影響で自殺が流行し、これを「ウェルテル効果」と称するとか。マスネ作曲のフランス・オペラ「ウェルテル」はこの小説を原作としています。

このオペラは、仕事帰りに度々レコード屋に寄っていたころ、店頭で偶然見つけた外国版DVDのオペラ映画を視聴したのが初めでした。この監督の映像作品は、歌と演技は別人というのがほとんどなのですが、この主役二人は歌手が演じています。

マスネ:ウェルテル(映画)
ペーター・ヴァイクル監督
ウェルテル:ぺーター・ドヴォルスキー
シャルロット:ブリギッテ・ファスベンダー
アルベール:ハンス・ヘルム
リボル・ペシェク指揮
プラハ交響楽団
ブラチスラバ・テレビ 1985年

ヒロインのシャルロットがウェルテルの手紙を読む場面、そしてクライマックスのウェルテル自殺の場面の音楽はとても劇的で、気に入りました。その間に歌われるウェルテルのとても甘美なアリアも魅力的でした。この映画版、それまで男の役、いわゆるズボン役でしか知らなかったファスベンダーのシャルロットが、なんというか独特の雰囲気を醸していて、とても好きです。

でも、CDで聴こうという気にはならず、次は、新国立劇場での観劇。全然と言っていいほど、印象に残りませんでした。一番の注目がシャルロットの夫アルベール・・・ 。余談ですが、この後に出かけた新国中劇場でのラ・ヴォーチェ公演「愛の妙薬」にインチキ薬売りのドゥルカマーラ博士で出演というので、期待したものです。ファンになるというほどではなかったですけど、そこそこよかったです・・ これは主役のネモリーノもウェルテルだったサバティーニでした。新国の「ウェルテル」と二人まで同じ歌手が出演したわけです。

そして、一番最近見たのが、ウィーン国立歌劇場の舞台収録映像。マルセロ・アルバレスに惹かれたのですが、そのうえ、シャルロッテが新国のホフマン物語でとても印象的なミューズ/ニクラウスだったガランチャだとういうのですから、お買い得。

時代設定は1950年代だそうです。その意図はわかりませんでした。他の二つではごく普通のちょっとおませだけど大人しめの少女というだけで存在感が希薄だった妹ソフィーがずいぶん違った雰囲気。がさつというか腹に一物ありそうというか・・ 

それにしても、このオペラ、納得するのが難しいです。音楽は、手紙を読むところあたりから頻出する劇的で暗い旋律とか、ウェルテルの美しいアリアとか、魅力的な部分がありますが、物語全体としては白々しい感じが拭えません。映画版は、ウェルテルが身勝手なストーカーのようでしたが、ウィーンの映像は、シャルロッテがウェルテルを弄んでいるように感じます。ああいう女にかかったら、純真な若者はあり地獄かも。印象の違いは、映画版が大幅短縮版(アリア後の拍手、カーテンコールなしにしても、およそ40分短い)であること、英語字幕なのもその理由かもしれません。日本語字幕だと、「神」の登場が相当に印象づけられますし、日本語表現の影響が大きいような気がします。とにかく、なぜだかを言葉では容易には説明できませんけど、映画版ではシャルロットに、ウィーンの映像ではウェルテルに感情移入してしまいました。

ウェルテルの死の場面の二人の顔の特大アップと、ウェルテルを愛撫しまくって(上から撮影される動きが下品というかぶざま・・だし・・)顔も手も血だらけになるシャルロッテは無意味どころか、興ざめ・・・。血だらけじゃなければ、超どアップにも耐えられる美人です・・ 新国のホフマン物語、ほんとに素敵でした。

ウェルテルの肥満ぶりは、好きな丸ちゃん、マルセロ・アルバレスのせいか、あまり気になりませんでした。もうちょっとダイエットしてほしいのはやまやまですけど。まだまだ、けっこう精悍だし、個性もばっちりだし、声良し、歌による表現も演技的表現もとても巧いし、ネクラ(死語かな?)な雰囲気もしっかり伝わってくるにもかかわらず、若者らしい愛嬌もあって可愛いし・・ いいですねぇ・・やっぱり好きです^^++

それでも、せめてこの辺で止まってもらいたいと切に願います。オペラは音楽が第一とは言え、同時に舞台物でもあるわけで、歌手は太ってなんぼみたいな感覚があるとしたら、やはりどうかと思います。この間「プロフェッショナル仕事の流儀」というNHKのシリーズ番組で坂東玉三郎を取り上げていました。玉三郎は細部にこだわることで有名なのだそうです。耳たぶにまで気を配って紅を差すということに対して、どうしてそこまでするのかという質問に「観客を夢の世界にいざなうのが仕事。やっぱり耳もちゃんとしないとよく見たときに耳で夢が覚めちゃうといけない。お客様の想像力を止めちゃうこともあるかもしれませんから・・」と答えていました。大いに納得、感嘆しました。関連記事:書かれた顔

マスネ:ウェルテル ウィーン国立歌劇場2005年
フィリップ・ジョルダン指揮
アンドレイ・セルバン演出

ウェルテル:マルセロ・アルバレス
シャルロット:エリーナ・ガランチャ
アルベール:アドリアン・エレート
ソフィー:イレアーナ・トンカ

3幕より〜何故私を目覚めさせるのか、おお 春風よ〜
1)マルセロ・アルバレス&エリーナ・ガランチャ

11315656.jpg

2)ペーター・ドヴォルスキー&ブリギッテ・ファスベンダー
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ミシェル・プラッソン指揮 パリ・オペラ座管弦楽団、オー・ド・セーヌ聖歌隊、パリ・オペラ座児童合唱団 ブノワ・ジャコ演出 2010年1月パリ・オペラ座バスティーユパリ 2010年


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コメント 11

ふくきち

ウェルテルは登場するなり「おお自然よ!」なんてストーリーと関係なさそうなアリアを歌ったり、いつの間にか恋してたり、ちょっと不自然な展開ですけれども、原作を読めば、不思議な部分が埋められて、より楽しめますよ。
夏にクリスマスソングの練習をしているのは未だに納得いかないですけど…。(←これは原作にはありません)
by ふくきち (2008-02-02 01:09) 

euridice

>原作を読めば、不思議な部分が埋められて、より楽しめます
そうなんですか。ゲーテ原作のオペラってけっこうありますけど
どれも原作をちゃんと読んだことがありません。
なんだか難解そう・・^^;;

>夏にクリスマスソングの練習
いくら子どもでもねぇ・・ですけど、のんびりやるには
半年かかるとか、それほど重要課題だとか?

オペラ自体、たぶん原作も「キリスト教」は最重要テーマのようですね・・
by euridice (2008-02-02 07:53) 

YUKI

「ウェルテル」の小説の影響で自殺が流行ったのですか?(゚o゚)
凄く怖ろしい流行ですねぇ。(-_-;)

音声ファイルを聴かせて頂きました!(^o^)
マルセロ・アルヴァレスは初めて聴きました。
若干細めな感じですが凄く切羽詰ったものを感じました。

ドボルスキーも美声のテノールですよね!(^_^)
ドボルスキーの歌い方は凄く打ちひしがれた雰囲気が素敵ですねぇ。
by YUKI (2008-02-02 16:57) 

euridice

YUKIさん
アルバレスはリマと同じアルゼンチン出身。
クーラもですし、アルゼンチン出身のテノールって
大活躍ですね・・^^+

ドヴォルスキーはスロヴァキア人で、
雰囲気が全体的にずいぶん違います・・
by euridice (2008-02-03 08:27) 

ななこ

ファスベンダーほんとうに素敵ですね。
彼女のズボン役はあまり好みではありませんでした。
女性役は陰影を伴った不思議な魅力を感じます。

私はイタリア系でない歌手(特にテノール)にどちらかというと好みのタイプが多いです。

ペーター・ヴァイクルという監督のことは知りませんでしたが、オネーギンも素敵な映画があるのですね。(聞いたような感じもするのですが)
歌手と俳優がこれは異なるのでしょうか?

歌舞伎座の助六で玉三郎の花魁揚巻の素足を目の前で見ました。
下駄から小指がちょっとはみだしててその指先の美しさにうっとりしてしまった経験があります。
最近のテレビでもストイックなまでの玉三郎の生活のドキュメントありましたね。
オペラ歌手の生活は一般的には歌舞伎役者のようにはいかなくて大変だと思います。
それでも役のために一気に何十キロの減量をしたとか言う話しを聞きますが体によい減量の仕方ではない感じがします。
by ななこ (2008-02-03 14:16) 

euridice

ななこさん
>彼女のズボン役
同様です。映像ですが、ちょっと癖があって、
見てて恥ずかしくなる部分がありますね・・
青少年の役だとあまり気になりませんが、オルロフスキー@こうもりは
けっこう鼻につきます^^;;

>ペーター・ヴァイクル
クラシカジャパンで頻繁に放送されたことがあります。オペラ以外にも
アリア集?みたいなのもあります。ドヴォルスキーがいろいろな場所で歌うのを見た事があります。オネーギンもですが、たいていは歌手と俳優が異なります。オネーギンはベルント・ヴァイクルが歌ってます。グレーミンはギャウロウ。

>一気に何十キロの減量
ここまで太ってしまうことが問題だと思います・・;;
結果もなんとなく精彩がないということになりがちなようですし・・
by euridice (2008-02-04 07:35) 

サンフランシスコ人

カリフォルニア州からこんにちは。 サンフランシスコで、リボル・ペシェクがサンフランシスコ交響楽団を指揮したことがあります。
by サンフランシスコ人 (2008-02-11 06:11) 

euridice

サンフランシスコ人さん、こんにちは。
keyakiさんのところでコメント拝読しています。

>リボル・ペシェク
情報ありがとうございます。
このDVDの記載された名前でしか知らない指揮者です。
国際的に活躍なさっているのですね。
by euridice (2008-02-11 08:47) 

サンフランシスコ人

二月にパリでナガノ指揮のウェルテルがあります。

http://www.operadeparis.fr/cns11/live/onp/site/saison/operas/operas_details.php?lang=en&event_id=100&CNSACTION=SELECT_EVENT
by サンフランシスコ人 (2009-01-17 07:11) 

たか

edcさん大変ご無沙汰です。なかなかおじゃまする余裕がなくて済みません。トラックバックありがとうございます。

ヴァイグル監督の映像はキワモノかと思っていたら意外に意外に正当なのでびっくりですね。
シャルロッテだけ見ればウィーンの映像のガランチャの方がイメージに合っていますが(笑)


by たか (2011-02-21 21:46) 

euridice

たかさん、こちらこそです。

>ヴァイグル監督の映像
はじめて視聴にはなかなか良いものが多いと思います。


by euridice (2011-02-22 19:11) 

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