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バーンスタインと共に....の一年 [人々]

Wagner: Tristan und Isoldeペーター・ホフマンがレナード・バーンスタインを知ったのは1980年のこと。バーンスタインの強い希望で行われたワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」でした。この企画は、およそ一年をかけ、このオペラを一幕ずつ、1981年の1月、4月、11月に、ミュンヘンのヘラクレス・ホールでコンサート形式の上演をし、同時にライヴ録音とテレビ用のビデオ撮りを行うというものでした。歌手にとって、これが初トリスタン役でした。このオペラ作品の中でも最高に難しく、テノールにとっては「陰気で、長く激しい紆余曲折があり、圧迫感があって、声にとっては拷問みたいな、殺人的に難しい役」を一歩一歩身につけるには、最良の条件とも言える企画だったのです。バーンスタインは、初トリスタンのホフマンに非常に協力的で、難しい箇所や、問題のある箇所を乗り越えられるよう、懇切丁寧な手助けを惜しまなかったということです。バーンスタインは、演奏者から最大限のものを引き出すべく、良い雰囲気を作ろうと最大限、努力します。

 「それから、レナード・バーンスタイン指揮下、ミュンヘンのヘラクレスホールで、最初のトリスタンをやった。私が史上最年少のトリスタンだったので、バーンスタインは私のことを『The Kid』と呼んだ。トリスタンは殺人的に難しい役だ。陰気で、長く激しい紆余曲折があり、圧迫感がある。声にとっては拷問みたいなものだ。ヒルデガルド・ベーレンスがイゾルデを歌ったが、三幕を一幕ずつ分けて、半年ごとの間隔をおいて上演し、同時にテレビで世界中に放映し、レコード録音もした。レニーが求めたのはこういうことだった。つまり、全部が感銘を与え、すばらしく進行すればするほど、レニーは一層立派になるというわけだ。それにしても、レニーは私たち歌手に、ものすごく多くのことを要求した。彼は何か全く特別のことを達成しようと望んでいて、そのためには、私たちの可能性を限界までとことん追求しようとした。レニーは、練習のときには、私たちからより多くを引き出すために、良い雰囲気をつくろうと努力した。私たちはしばらくの間、カナリア諸島にある ジュトウス・フランツ氏の家で仕事をした。レニーはいつも機嫌がよく、陽気なアメリカ人気質を振りまいて、失敗などは当然あるはずもないことで、まるで全てが気楽に軽々と進んでいるかのように振る舞っていた。しかし、彼のこういう外見の裏には、だれよりもすばらしくだれよりも真剣な音楽家が潜んでいた。」(ペーター・ホフマン)

しかし、特に、練習期間が非常に短く集中的だった、三幕は殊に厳しい状況だったようです。リハーサルがアメリカで行われたこともあり、気候の変化、風邪の蔓延に悩まされ、歌手たちは薬と注射をめいっぱいつかって公演に備えることに。指揮者自身も風邪をひき大変だったようです。ホフマンもダウンして、ゲネプロは欠席したようです。正直、とにかくすべてを投げ出したいという誘惑にかられたそうです。

イゾルデ役のヒルデガルド・ベーレンスは、三幕の公演の六週間前に、女の子を出産しており授乳中で、薬が使えず、一度は公演中に咳き込んでしまったほどだそうです。その時は、一度演奏を止め、おさまってからやり直したとか。

そこを冷静に落ち着いて行動し、舞台上では、歌手同士がお互いに頼りになる存在でなければならないと、歌手は言います。すべての舞台上の陥穽に際して、「危急の場合」において、共演者相互の連帯も結果の質を左右するのです。困難な状況でこそ、そういうことが重要で、「冷静さこそが、歌手が殊にしっかりと身につけるべき美徳」だと、歌手は述べています。

演奏についても、指揮者の思い入れは凄まじく、歌手に対する要求も細かく、非常に難しいものだったようです。ベーレンスもあまりの干渉というか要求に、「私のすることは何もないみたい。私がイゾルデなんですから、任せてください」とちょっとけんかごしになったりもしたそうです。しかし、バーンスタインの音楽家としてのすばらしさは忘れ難いそうです。

ホフマンも「バーンスタインに対して怒りを露にしている」などと書いてある本や雑誌もありますが、伝記を読むかぎり、もちろん軋轢や葛藤もあったにしろ、バーンスタインを優れた指揮者と認めていたのは確かなことでしょう。

「私はこれまで多くの優秀な指揮者と一緒にすばらしい仕事をしてきた。彼らの優れた能力を低く評価するつもりは全くないが、それにもかかわらず、正直に言って、カラヤンとバーンスタインは、はるかに卓越していたと言わざるを得ない。」(ペーター・ホフマン)

レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)1918.08.25-1990.10.14 [アメリカ]
参照:CD:バーンスタイン指揮「トリスタンとイゾルデ」


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