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ただ単に•••10 [1983年刊伝記]

私は夢を見ているのだろうか
 時々、ひどく嫌な状況にいるのか、それとも、きわめて幸福な状況にいるのか、自問する。これは全部夢ではないのか、私は本当に私なのかどうか。それどころか、夢の中でも腕をつねることは可能で、目も覚めない。つねったことがすでに夢なのだから。
 それにしても、ある種の確実性が、この職業においては、おそらく命取りだろう。こんなイメージだ。小さな家を持って、そこから仕事に行き、美しく歌い、公演のあとは、再び家に戻って、そして、これが、次の三十年・・・  なんと非創造的! 芸術家というものは、どの伝記を読んでも、おおかたは楽ではなく、不当な扱いを受けている。幾人もがなんという苦難の末に死んだことか! これはこうあるべきだと思う。もちろん苦難に耐えさえすれば、だれもが芸術家になれるということではない。
 苦難と無縁の芸術家の生涯などというものが、そもそも存在するのだろうか。何が起こるか、何が残るのかわからない暗い時期はいつでもどこでも突如出現する。その時は、私はきっとやる、たとえだれもやり遂げなくても、私はあきらめないという、粘り強い信念を持つしかない。それには、相当以上の頑固さが必要だ。
 例えば、私はあの事故をカタストロフ的大変動だとは思っていないが、それによって相当具体的な変化を被ったことがわかる。祝祭劇場の食堂の庭で、私は足にギブスをして座っていて、仲間が「くだらないけいこだ」とぶつぶつ文句を言ったとき、「くだらないけいこ」に参加して、腹をたてることができるのが、うれしかったものだ。
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