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2)はじめに [2012年刊:フリッツ・ホフマン著]

p.11-13
はじめに
 この本はもともと兄自身が書こうとしていたものである。彼は、その日常や舞台で経験したことを逸話風に物語るとき、いつかこういうことを本にしたいといつも言っていた。残念ながらそれはもうかなわないが、幸運にもほとんどの場に私も一緒にいたのだから、私がこれらの思い出の一部を甦らせたいと思う。

 一緒に旅する中で私たちは多くの出来事に出会い、多くのことを感じた。この本では、私自身の言葉によって、それらを最高に忠実に再現するよう試みた。それがこの本で成功しているかどうかは、読者の判断に任せたい。ここに書かれていることは事実であり信頼できるものであることを保証する。

 皆さんもご存知のように、兄は典型的なオペラ歌手ではなかった。兄にとって肩書きは重要ではなかった。公式なレセプションやパーティーは大嫌いだった。ほとんどなかったのだが、音楽以外の話もしたがる普通の人たちと自由な時間を過ごす方がずっと好きだった。ファンや友人たちは、彼の気楽で型にはまらない生き方が好きだったが、オペラ界では彼は最高にセクシーなワーグナーテノールと思われていた。

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 全ての演出家が彼の従順でない性格を好ましく思ったわけではなかった。例えば、チューリッヒでの最初のリハーサル後のあの時ように、彼は役柄の解釈が演出家と正反対だという理由でさっさと帰ってしまったりした。

 ザルツブルグのパルジファルでカラヤンとのリハーサルの時には、マエストロに異を唱えて、自分の考えを実行したがった。彼がこういう批判的な態度の危険性についてわかっていたのかどうか、定かではない。一瞬、驚きの沈黙が劇場を支配した。おそらくこんなことをあえてやる歌手はいないと後で知った。カラヤンはしばらく考えて、ペーターの提案に同意した。つまり、彼はまさにこうだった。時に反抗的で、しばしばうるさい不愉快な奴だったが、常に彼は彼自身だった。

 この本を兄ペーターに捧げる。私は20年以上彼のマネージャーだった。私たちが長年、人生の追い越し車線を行くことがゆるされ、彼と共有したわくわくさせられた年月にとても感謝している。

フリッツ・ホフマン

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目次
ヨッヘン・ロイシュナーによる序文
はじめに
ロンドン:魔弾の射手
バイロイト:ヴォルフガング・ワーグナー
パルジファル:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ロリオ:ヴィッコ・フォン・ビューロウ
リヒャルト・ワーグナー:映画
シェーンロイト:城館
ペーターと広告
コルシカ:帆走
モスクワ:ローエングリン
ロック・クラシック:大成功
バイロイト:ノートゥング
ゆすり
FCヴァルハラ:サッカー
ドイツ:ツアー
パリ:ジェシー・ノーマン
ニューヨーク:デイヴィッド・ロックフェラー
ボルドー:大地の歌
アリゾナ:タンクヴェルデ牧場
ペーターのボリス:真っ白
ミスター・ソニー:アキオ・モリタ(盛田 昭夫)
ロサンゼルス:キャピトル・スタジオ
ハンブルク:オペラ座の怪人
ナッシュビル&グレイスランド
ナミビア:楽しい旅行
ペーター・ホフマンの部屋
ゲストブックから
表紙と目次
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