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ワーグナー「リエンツィ 最後の護民官」 [オペラ映像]

ワーグナー:リエンツィ、最後の護民官[DVD]ワーグナー:リエンツィ 最後の護民官
ベルリン・ドイツ・オペラ2010年
セバスチャン・レッシング指揮
フィリップ・シュテルツル演出

リエンツィ:トルステン・ケルル
イレーネ(リエンツィの妹):カミラ・ニールント
アドリアーノ・コロンナ(イレーネの恋人):ケイト・オルドリッチ

関連記事:リエンツィの祈り

日本語字幕付きの映像があれば、聴いてみたいと思っていたオペラです。これが初正規映像だとのことです。序曲と主人公のアリア「リエンツィの祈り」は知っていました。どちらも魅力的で、なじみやすい音楽です。全体的にも、どこかで聴いたというか、雰囲気が似ているという感じがする部分がたくさんありました。「タンホイザー」そして、なぜか「ばらの騎士」??

この映像は、もともとものすごく長いのを、カットして2時間半弱にした上演だそうです。それでも十分長かったです。時代と場所を変更した演出です。それだけのせいかどうかわかりせんが、歴史物の時代と場所を変更されるとやはり直感的な理解が妨げられるようです。それと、この会社の日本語字幕はいつもですけど、なんだか変。日本人が訳しているのでしょうか? 気がついた最高傑作は「おいで お鼻が高い妹」

肥満体のおそらく主人公リエンツィが身軽に飛んだり跳ねたりする序曲中の舞台はおもしろかったです。チャプリンの映画「独裁者」を思い出します。序曲の終わりに、いきなり登場する女性、その愛人かと思いました。字幕で「妹」と判明ですが、ずっと妹というよりは愛人に見えました。演出はリエンツィ=ヒトラー、妹=エヴァ・ブラウンだそうですから、愛人に見えて当然なんでしょう・・ 

「リエンツィの祈り」などから受ける印象では、この人物は、純粋で高潔という感じですが、この映像の男ははっきりうさんくさい。自己陶酔しているだけの弱い男。言葉と行動が乖離している。カメラマン同伴で要所要所で、宣伝写真を撮らせていて、イレーネが並んでポーズを取り作り笑いをするとか・・、批判的に描かれた「独裁者」でしょう。当然ながら、民衆に虐殺される結末も悲劇に思えない・・リエンツィに同情はしないけど、民衆は恐ろしい・・です。アドリアーノも腰がすわらず、嘆きまくるだけ・・まあ、人間そんなものと言えばそうなんでしょうけど・・愛の二重唱とかしちゃうけど、イレーネはリエンツィ一筋・・ こんな中で、主人公のアリア「リエンツィの祈り」は完璧に浮いているようでした。美しすぎる歌。なんでもかのヒトラーはこのオペラを観劇していたく感激し、ドイツの救済者たらんと、ああいうことになったという話です。普通の演出で観るとどう見えるのでしょうか。

でも、今現在の世界を見回しても、こういう混沌が現実なのだと思います。人間の世界って難しい・・恐ろしい・・映画などで見慣れたファシズム的情景が延々と続くのですが、やはり気が重くなりました。

この映像の筋。
一部:市街地
14世紀、貴族が横暴をきわめているローマ。平民であるリエンツィも若いころ、弟を貴族に殺された。ある時、妹がある貴族に誘拐される。彼女を奪おうとする別の貴族とけんかになる。その別の貴族の息子アドリアーノは彼女を愛している。その騒ぎを枢機卿が止めにはいるがかなわない。そこにリエンツィ登場。貴族たちを市外に閉め出し、教会と民衆の支持により護民官となる。貴族たちも許すが、彼等は陰謀を巡らし、リエンツィ暗殺を企て、失敗。それでも、リエンツィは、アドリアーノとイレーネの嘆願を入れ、民衆をおさえて、彼等を許す。

二部:戦乱の市街地とリエンチのいる地下壕。
死刑をまぬがれた貴族たちは挙兵しローマに迫る。リエンツィに対する反感が広がる。アドリアーノの父親が死ぬ。アドリアーノはリエンツィを刺すが、リエンツィは無事。地下壕で都市建築模型をいじりながら「リエンツィの祈り」を歌う。リエンツィとイレーネは愛を確かめ合う。イレーネはアドリアーノを拒否する。リエンツィもイレーネも民衆に殺される。アドリアーノはイレーネの遺骸を見つけて嘆き悲しむ。

いつもおじゃましているブログ、「さまよえるクラヲタ人」(こちら)に本来的な詳しいあらすじがあります。

関連記事:同じ演出家によるオペラの映像「ベンヴェヌート・チェリーニ


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コメント 4

ななこ

リエンツィってこんなストーリーだったのですか?!
ホフマンやコロの歌を聴いてたらとても想像できないです。
あらすじも知りませんでした。
14世紀ローマもこの読み替え舞台20世紀も、そして21世紀の今も人類という動物は相も変わらぬ愚業の繰り返しですね。
地球誕生以来、人類ほど急速に進化し急速に滅亡の歴史を辿る種はなかったとこの頃思います。
DVD、結構なお値段ですね;;
日本語字幕がなくてはなんともなりませんし、こういう稀少な舞台こそテレビで放送願いたいです。

by ななこ (2011-03-03 13:08) 

euridice

>リエンツィってこんなストーリーだった
この上演ではこのようです。相当カットがあるそうで、そのせいで、リエンツィが民衆の支持を失った理由が不明瞭になったという人もいます。本来、リエンツィがこのような「独裁者」として描かれているオペラなのかどうかもわかりません。違うのでしょう。やはりこういうことがオペラ演出の微妙なところですね。

台本と音楽に忠実な演出を見てもこのような解釈が可能なのかもしれませんし・・観客に解釈の余地を残してほしいようにも思います。

いわゆる普通の演出でも、見えるものと台詞が合わないことがあるのがオペラですから、演出でそれが拡大されたら、もうわけがわからなくなってしまいます。

登場人物の外見や雰囲気だって、意図的なのか、単に合う歌手がいなかっただけなのかもわからなくなる・・この映像ではそれはなかったと思いますけど・・

これって、「ヒトラー」というオペラをつくる手間を省いたみたいな感じかな・・ ヒトラーが見たという「リエンツィ」というオペラを見てみたいって気がします。



by euridice (2011-03-04 10:40) 

yokochan

こんにちは。
ご案内、ありがとうございます。
リエンツィの映像が出ているとは知りませんでした。
ミュンヘンやウィーンで上演されてはいるようですが、こちらはベルリンですね。
ノーカットだと5時間近くかかるので、実際に観ると苦痛かもしれません。

youtubeで少しだけ観ることができました。序曲からヒトラーもどきのリエンツィが登場して悶え、自己陶酔してますね(笑)
映像も多用しているようで、きっと舞台で接したら気分が悪くなってしまうかも。
ドイツ人って、過去の自分たちのことを平気でこうしてさらけ出してパロディとしまうのですね。
われわれ日本人では難しいことかもしれません。

いやな気分になるかもしれませんが、わたしも是非とも観てみようと思います。
そうそう、大仏のような頭のケルル氏は、わたしはなかなかいい歌手だと思うのですが、ここではいかがでしたでしょうか。
by yokochan (2011-03-05 16:21) 

euridice

yokochanさん、こんにちは。

>映像も多用
はじめからおわりまで舞台正面奥は映像です。
舞台上と正反対の行為が映ったりもするので、混乱します。
じっくり見ればいろいろ発見があるのかもしれません・・

>過去の自分たちのことを
複雑ですね・・
今アフリカなどで進行中のことなどを思うと、この上演(映像)
生々しく時事的です。

>ケルル氏
新国「カルメン」でドン・ホセだったんですよね。
残念ながらパスしちゃいました。
yokochanさんはいらしたんですね。

リエンツィ、いいですよ〜〜熱演です。
大写しの映像もいっぱいですが、
俳優として違和感ないです。





by euridice (2011-03-05 20:16) 

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