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ポッペアの戴冠 [オペラ映像]

たまたまテレビで見て、気に入ってしまったオペラ映像のひとつです。録画を繰り返し視聴、あげくに音声だけウォークマンに入れて、通勤時間にもさんざん聞いたものです。もちろん主役テノールには当然興味を持ったので、以後、映像を各種視聴。でも、そこそこのものばかりの上、キャリアもなんとなくそこそこの感じで、いつとなく忘れて、最近は名前さえ思い出せない有様。

2010年、ニューヨーク、メトロポリタン・オペラで、新演出の「ニーベルングの指環」が始まったとのこと。1986年からの新演出と違って、ちゃんと「ラインの黄金」からです。目下映画館で上映中。明日(2010.11.12金)でとりあえず終了だそうです。この映像でとても印象的なネローネだったリチャード・クロフトがローゲだということで、久しぶりに思い出しました。でも、彼のローゲはやっぱり魅力的ではなかった・・のですけど、「ポッペア」の旧記事を上げます。

ポッペアと言えば、ローマ帝国の代表的悪女のひとりでしょうが、彼女の勝利の物語というところ。歴史的にはその後には悲劇が待っているようですけど。このオペラのもうひとりの主人公、皇帝ネロは最低の暴君として有名で、悪が栄えてというところですが、オペラではこれが愛の勝利。大昔のオペラとは思えないほど新鮮でした。

ネロ役は女声歌手が担当することが多いようですが、私はこれが苦手です。歌だけを楽しむ場合は別にかまわないのですが、物語となると視覚的に説得力のあるもので楽しみたいと思います(もちろんまさに男と思えればいいのですけど・・) この映像はそういう意味でも、美男美女という感じで違和感がありません。男性が演じる乳母二人もおもしろいですし。
(女声がネロの録音も聴いたことがあるのですが、記録がありません。CDで音だけだと男性を女声が担当していると物語的には、全然わけがわからなくなりますね・・・)

ちなみに、P.ホフマンもキャリアの初期、リューベック歌劇場専属時代に、ネロ役を演じたことがあるそうです。(写真はリューベック1972/73)

悪名高いローマ皇帝ネロの愛人ポッペアが皇后になる話。プロローグとして、幸運の女神、美徳の女神、愛の神が誰が一番強いかを争う場面があるのだけど、この映像ではカットされています。ほとんど何もない簡単な舞台。衣装も簡素で、すっきりと美しい。歌手たちも役柄に合った容姿で、オペラ的違和感なし。男の役は、小姓を除いて、全員男声歌手が担当。乳母二人も男声歌手ですが、これも違和感はありません。お嬢様でありご主人様であるポッペアが皇后になったお陰で、大出世、ど派手に気飾って、小姓を従えて、人生の諧謔を歌うちょっとグロテスクな乳母には唖然ながら、これも見もの。音楽は歌も含めて非常になじみやすいと思います。繰り返しの鑑賞に耐えます。今回は久しぶりですが、当時はすっかりはまって何度みたり、きいたりしたことか・・・1995年ごろ、テレビで放送されました。

ルネ・ヤーコプス指揮、コンチェルト・ケルン
ミヒャエル・ハンペ演出 シュヴェチンゲン音楽祭1993年

ポッペア:パトリシア・シューマン(S)
皇帝ネロ:リチャード・クロフト(T)
皇后オクタヴィア:キャスリーン・クールマン(Ms)
皇后の乳母:ドミニク・ヴィス(CT)
ポッペアの乳母:クルティス・レイヤム(T)
ポッペアの夫、将軍オットーネ:ジェフリー・ゴール(CT)
皇帝の教師、哲学者セネカ:ハリー・ペーターズ(Bs)
オットーネに恋するドルシルラ:ダルラ・ブルークス(S)
小姓:加納悦子

オットーネが任地から妻のもとへ戻ってくるところからはじまります。妻への思いを胸に家に近づくと、皇帝の近衛兵が門のところに。一瞬にして事態を察し、立ち去ります。カウンター・テノールが演じていて、その独特の高い声に不思議な魅力があります。

そして、延々と皇帝とポッペアの後朝の別れの場面。美しい二人と音楽のお陰で飽きません。やっと皇帝は去り、乳母が危険な恋を心配しますが、幸運の女神と愛の神の加護を信じるポッペアは自信満々。(オペラ的水準から言えば、このネロ&ポッペアは、容姿、演技共、相当以上にかっこいいと言えるのではないでしょうか・・;)

皇后オッターヴィアが、夫の行状と女の身の不幸を嘆きます。皇后は先帝の皇女で、ネロより、はるかに年上だったらしい。歴史的には彼女との結婚が彼を皇位につかせたのだったと思います。いかにも謹厳実直、凛とした雰囲気の皇后です。乳母はあなたも勝手にすればよいと浮気を薦めます。皇帝の家庭教師、老哲学者セネカが登場してぐだぐだと説教を垂れ、小姓がその偽善者ぶりに腹を立てます。皇后は神殿に祈りに行き、入れ違いに皇帝が登場。皇后と離婚して、ポッペアと結婚すると宣言。セネカはそれを諌めます。皇帝、怒って退場。女神が現れ、セネカの死を予言します。

ベッドの皇帝とポッペア。ポッペアはセネカを中傷。寝室でのおねだりというわけ。ポッペアの思うつぼにはまった皇帝は、セネカに死を命じます。皇帝が去ったあとに、オットーネが忍んで来て、ポッペアに哀願するも、ポッペアはすげなく、乱暴に退けます。意気消沈のオットーネ。そこに彼を恋い慕うドルシルラ登場。オットーネはドルシルラに愛を誓いますが、まだ本当の心はポッペアに。

セネカは皇帝の命を受け、浴槽で手首を切って自殺。その死体を前に、皇帝は友人と共に酒を酌み交わし、死体をからかいつつ、大喜びの大騒ぎ。

ついにオットーネの愛を得てはしゃぐドルシルラ。皇后にポッペア暗殺を命じられたオットーネがやって来て、女装するためにドルシルラの服を借りて、眠っているポッペアを刺し殺そうとします。しかし、ためらいがある上、愛の神に妨害され、失敗。逃げ去ります。

犯人の着ていた衣装のせいで、ドルシルラは逮捕され、拷問され、死刑を宣告されます。そこに、オットーネが駆けつけ、自分が真犯人で、皇后の命令でやったと告白。それを聞いた皇帝、内心ほくそ笑み、オットーネを許し、追放を言い渡します。その愛に免じてドルシルラの同行も認めます。皇帝に感謝する二人。ポッペア暗殺計画を理由に皇后の退位と追放を高らかに宣言する皇帝。

皇后は乳母を伴って、小舟で海へ。彼女のふりしぼるようなローマへの別れの歌の痛切さは、胸をひきさくようです。

ポッペアは晴れて皇后の位につき、皇帝と愛を賛美します。

ネロもポッペアも酷い、人でなしと思うのですが、不思議と悪い奴という嫌悪感がない。だれも悪くないという気分。やはり「愛」はすべてを許し、超越するのかしら?これこそ、カタルシス?何だか不思議なカタルシスが得られる映像のようです・・・
モンテヴェルディ:歌劇「ポッペアの戴冠」(ヤーコプス版・伊語歌詞) [DVD]

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コメント 10

ふくろう

私もこのオペラに興味はあるのですが、
女声が男役を歌うのが苦手で今まで聴かずにいました。
このリチャード・クロフトのは面白そうですね!
お兄ちゃんはバリトン、弟はテナーと兄弟で頑張ってますが、
こういうのも歌っていたとは知りませんでした。
今度探してみます。ありがとうございました!
by ふくろう (2005-03-03 02:54) 

euridice

ARTHAUS のDVDがあります。ぜひ見てみて! このネロ、美しい上に性格悪そうです。ポネルのもそういう性格出てると思いますけど、私はこっちのほうが断然好みです。クロフトの映像の中でもダントツにいいと思います。(これで興味もって可能な限り見ました^^;)
by euridice (2005-03-03 07:41) 

ユルシュール

私は逆に、もともとカストラートにあてられていたような役やフランス・オペラなどのズボン役(『ミニョン』のフレデリックの他に、『ファウスト』のジーベルなど)をテノール歌手が担当している録音にはつい尻込みしてしまうほうですが、ヴィジュアル面でいえば男性歌手の方が無理がないですよね。
そういう意味でも、古楽に関しては、カウンターテノールの存在は本当にありがたいです。

えうりでぃちぇさんがお聴きになったのは、もしかしてガーディナー指揮/イギリス・バロック・ソロイスツの録音(Archiv/1993)でしょうか?ハンチャードというソプラノ歌手がネローネを歌っているのですが……。
by ユルシュール (2005-03-04 18:22) 

euridice

>ガーディナー指揮
だったような気もします。Archiv だったような・・・ 
女性が男性役なら、聴くだけのほうがいいかも。見て、いいなと思うのは、その男性が少年に近い場合かしら? ジーベル@ファウストも女声でいいと思いますし、オクタヴィアン@ばらの騎士、ケルビーノ@フィガロの結婚 etc. 
でも、一概には言えませんね。やっぱりその歌手が総合的に役にぴったりじゃなければね。男でありさえすればいいってわけにはいかないから、難しい・・(モーツァルトの「イドメネオ」、イダマンテを男がやってるのを見たことがあるけど、まあハンサムだったけど、よくなかった・・・フォン・シュターデのほうが好きでした ^^)

男の役を女声が歌っているCDでよく聴くというか、気に入っているのは、たまたまですけど、モーツァルトの「ルーチョ・シッラ」 ストーリー的には全然把握できないし、する気もなく、好きなアリアを楽しむって感じですね。
市民オペラで見たことがありますけど、人間関係がほとんどわかりませんでした。男の役の女声歌手はいちおう男の格好してたんですけどねぇ・・・男には見えませんでしたわ^^; でも、心に残るアリアがあったので、CD 買いました・・
by euridice (2005-03-04 20:01) 

ふくろう

確かに聴くだけなら女声でも良いですが、
見るとなると混乱の元だけかもしれませんね(^^;
この前「薔薇の騎士」を見に行った時、
一緒に行ったオペラ初心者の友人がオクタビアンが男だということを
何回説明しても理解してくれず往生しました。
「だってあの人、女でしょ!?」
パンツロールというものの説明もしましたが、
視界からの影響は大きいですもんねぇ。
by ふくろう (2005-03-05 02:13) 

euridice

>何回説明しても理解してくれず
これはちょっと極端な方ですね^^; 日本人なら、歌舞伎や宝塚歌劇で、どっちみち慣れてはいるけど。衣装、メーク、演技で、迷わない^^?ように、徹底しているところが、中途半端になりがちなオペラとは違うわね。
by euridice (2005-03-05 07:25) 

ふくろう

>これはちょっと極端な方ですね^^; 
そうですねぇ、私が連れて行くまでオペラとは縁がなく、
70数年生きてきたカナダ人ですから・・・(^^;;;
帰宅してこのことをグチっていたら夫が苦笑いしていました。
こういう時はやはりオペラやバレエ、演劇好きな人でないと
困るわなぁと思いました。
by ふくろう (2005-03-05 13:45) 

ユルシュール

数年前に友人の縁で、某大学の歌劇サークルがこの作品を上演したのを観たことがありますが、その時のフレデリックは女性でした。ロングヘアーを後ろでひとつ結びにしただけの彼女は……やはりどう見ても女の子でした。 ^^;
歌舞伎の女形のように、とひとくくりには言えないのかもしれませんが、オペラのズボン役もひとつの伝統、約束事として受け止める必要があるのかもしれません。ケルビーノやオクタヴィアンを男性歌手に歌わせるわけにはゆきませんし。
by ユルシュール (2005-03-08 19:47) 

euridice

ご覧になったのは「ポッペアの戴冠」かしら? それとも「ミニョンン」かしら?^^;?

>ケルビーノやオクタヴィアン
それはそうですね^^ こういう青少年の部類は、まず気になりません。男性歌手には無理でしょうね^^; 最近は少年っぽい女性歌手がけっこういますね。ほれぼれしちゃいます。新国で見たケルビーノもとってもよかったです。まあ、この間テレビで見たケルビーノは妖艶な美女がもだえているような感じがしないでもなかったですけど(@。@;
by euridice (2005-03-08 20:57) 

ユルシュール

ごめんなさい、『ミニョン』です。^^;;; とほほ……。

>最近は少年っぽい女性歌手がけっこういますね。ほれぼれしちゃいます。
そうですね。
ベテランですけれど、一度フォン・オッターのオクタヴィアンを生で観てみたい(観てみたかった?今でもこの役歌っているのでしょうか)です。
by ユルシュール (2005-03-08 22:18) 

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