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トロヴァトーレ ブレゲンツ音楽祭2006年 [オペラ映像]

Il Trovatore (2pc) (Sub Dts)NHK-BShiで放送。HDに入れっぱなしで、忘れるともなく忘れていました。巡回ブログの話題に出たので、思い出し、視聴。

オーストリア西部のボーデン湖に特設舞台を造っての公演だそうです。観客やオーケストラはどこにいるのか全然わかりません。歌手も合唱団もマイクをつけています。以前に同じ場所での「ボエーム」の映像を見ました。これはけっこうおもしろかったですが、今回「トロヴァトーレ」はなんだかねぇ・・ 解説の堀内氏がいくら力説してくれても、「トロヴァトーレは炎だ」の演出には全然「説得」されませんでした。演奏は、歌も管弦楽も退屈。これも解説者が言う登場人物たちの「炎の如き激情」だか「情熱」だか、残念ながら感じられませんでした。主役三人が巨大空間であるコンビナート(かな?)を駆け回り、階段を駆け下り、音楽にぴったりに三人が一階の同じ平面にそろったとき、うまくいったねって感心しましたけど・・。松明をくるくる回す技を披露していたのは、軽業のプロでしょうか。

ヴェルディ:トロヴァトーレ
トーマス・レスナー指揮
ロバート・カーセン演出
ブレゲンツ音楽祭2006年8月

レオノーラ:イアノ・タマール
アズチェーナ:マリアンネ・コルネッティ
マンリーコ:カール・タナー
ルーナ伯爵:ジェリコ・ルチッチ
フェランド:ジョヴァンニ・バッティスタ・パローディ

演出が異様ならぬ概要はこちらでどうぞ。
マンリーコのテノール氏は、新国立劇場で二度、出会いました。全然記憶にないカヴァラドッシ@トスカともう忘れてしまいましたけど、その時の感想では、けっこう様になってたらしいアンドレア・シェニエです。このマンリーコは全然よくなかった。レオノーラは、いかにもおばさんで、違和感大。成金の妻っぽく見えるので、マンリーコへの激しい恋がなんとなく薄汚く感じられるのが一番残念。ルーナも下品な悪役でしかない。アズチューナが、これは解説者氏にちょっと同感で、主役の中では一番いい。それにしても、かわいげはゼロ。まさに魔女というよりトロル。相当な肥満だけど活発に動くのも凄い。

このオペラ、テノールの高音、ハイCが注目を集めるというか、そこだけ一点集中で鑑賞するオペラ狂もいるらしい。こういうドラマチックな役にぴったりのテノールは概して超高音は苦手なようで、とっても苦労しちゃうみたいです。下げて歌うという手、もあるけど、どうもこっちのほうが本来の楽譜にある音らしいのに、相当な危険を覚悟しなくちゃいけないようです。

ペーター・ホフマンの伝記(1983)に、高音について、こんなくだりがあります。
「何はともあれ、気楽で、楽しい時代だった。だが、果たせるかな、すぐに「ファウスト」の番がきた。アリアの中に高いドの音があるのだ。この音は、一度しかうまくいかなかったと思う。私はこの音に対して物凄く神経質だった。しかも、このアリアは、『私はめったにないような不安を感じている』と、始まるのだ。まさにその通りではないか」

そして、こんな引用が添えられています。
『観客は、テノールが輝かしい高音、高いドの音を出せば、他のところでさんざんひどい歌い方をしても許してくれるが、ある晩の公演で、天使のようにすばらしく歌いながら、最高音を一つ失敗して、すべてをぶちこわす可能性もあるのだ。どんな公演にしろ、高いドの音を出し損なったら、立ち直れない』(ルチアーノ・パヴァロッティ)

この映像のようなスペクタクル公演には、ハイC目当てのオペラ狂はやってこないでしょう。それにしてもハイCどころか、今までの視聴したどのトロヴァトーレに比べても、ヴェルディの音楽の魅力とはほど遠かったです。そういうものを期待するべき公演ではないということなのだと思いますが、スペクタクルショーとしても、中途半端。テレビのせいもあるかもしれないけど、実際に現地でいったい何が見え、何がどう聞こえるのか。巨大装置とやたらに上がる炎は見えるでしょうけど、登場人物たちは、何か蠢いているぐらいにしか見えないんじゃないかしらねぇ・・・

以下、余談です。
ペーター・ホフマンのデビューに際して、エージェントは様々な話を次々と持ち込みました。その中のひとつに、レーゲンスブルグの劇場の「トロヴァトーレ」のマンリーコ役があったとか。ちなみに、ウルムのオテロというのもあったそうです。
『そうこうするうちにレーゲンスブルクが再度連絡を寄越した。マンリーコ一回につき900マルクで、十九回の上演を保証するという。そのころはすぐにもギャラが欲しかった。しかし、マンリーコ役、ストレッタ、アリア、その上、たくさんの上演回数、これらをこなそうとしたところで、そのころの私は、最終リハーサル(ゲネプロ)までさえも持たないこと間違いなしということはわかっていた。私が断ったとき、エージェントはご機嫌ななめだった』

で、ここで再び、パヴァロッティのお言葉です。
「テノールが年を取ったら、声が以前より暗くなるのは、自然なことだ。もちろん私が強調したいのは、これは、その高音が失われるということを意味せず、単に声が自然により暗い音色を帯びるようになるだけだということだ。こういうことは、だいたい年齢が、四十歳ごろ起る。だから、私は四十歳まで待ってから、マンリーコを歌ったのだ」(ルチアーノ・パヴァロッティ)

結局ホフマンはリューベックの上演を保証しない「魔笛」のタミーノとしての単発契約でオペラ歌手デビューをします。そして、その後引き続き、初心者用の契約ではなくて主役級テノールとして専属契約を結びます。最初のタミーノの契約は、結果的には何回か歌ったのですが、歌った場合のみ、二千マルクという話で、歌うことになるかどうかはっきりしていなかったそうです。

『後に、このエージェントから離れたとき、今や我々はお前を育てあげた。だから、お前は自由だと言われた。それにしても、育成といいながら、壊してしまったら、話にならない。私だって、もしエージェントが持ってきた話(ウルムでのオテロのような)に乗っていたとしたら、どうなっていたことか。あの時は、人気のない道を選んだのだが、その決断の正しさを確信していた』

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コメント 8

keyaki

>イアノ・タマール
私たちがタマちゃんと呼んでいるのは、タマール・イヴェリなんですが、イアノ・タマールもいるんですね。同一人物かと勘違いしてました。
名前と姓が、なんかごちゃごちゃ......イアノ・タマールはタマちゃんってかんじではないですね。

声の成熟ということはよく言われますね。オペラ歌手は、40代前半が、一番充実している時期ということなんでしょうか。
ドミンゴなんかは、自分ではバリトンだと思っていたわけですから、テノールとしては、声的にはデビュー当初から成熟していたということかしら。でも、ドミンゴが自分でバリトンと決めていたのは、単に高音が苦手というだけで、確かにあんな甘い声でバリトンはないですよね。
若い時からライモンディとの共演が多いので、けっこう聞いてますが、若い頃は、甘過ぎで、なんだかなぁ〜でしたが、40才くらいから、ちょうどいいくらいの甘さになったと思います。つまり、これも声が成熟したってことかしら。
ライモンディなんかは、役柄で、若い時の方がいい役と、50才過ぎてからでいい役と、いろいろ考えてレパートリーにしていったみたいです。
自分で、今、何を歌うべきかを考えられるオペラ歌手は、ほんの一握りのトップに立つ歌手で、あとは、オファーがきたら..ということなんでしょうね。
by keyaki (2008-07-28 09:46) 

立花

確かに、オペラではなく、さりとてショーに徹しているわけでもなく、
どうとってよいのやら、という映像ではありました。
私は単純に笑い飛ばしてしまったのですが。

>ヴェルディの音楽の魅力

あまり最近イタオペを聴いていないのですが、
オペラをしっかり振れる指揮者が少なくなっていることは感じます。
by 立花 (2008-07-28 19:55) 

Sardanapalus

あ、これファイヤーダンスのやつですよね。物語に全く入り込めず、音楽にも魅力を感じられず、せっかく贔屓の歌手(ルーナ伯爵)が出ているのに、すぐにHDから消してしまいました(笑)2度と見る気にならないくらい退屈でしたね~。カーセンは好きな演出家ですが、これはいただけません。
by Sardanapalus (2008-07-28 22:54) 

euridice

keyakiさん
ポーランド来日のデズデモナだったイヴェリ・タマールだと思って見始めたのですが、いくらなんでも違うよ・・でした。ちょっとがっかり。

立花さん
立花さんの感想も、思い出すきっかけでした。
オペラはやっぱり難しいものだとつくづく思いました。

Sardanaさん
オルフェオさんのところで話題になりましたね。最近、再放送されたということですね・・(もっといいのを放送してほしいところですけどねぇ・・)
>贔屓の歌手(ルーナ伯爵)
あれじゃ、ちょっとがっかりですね。
>ファイヤーダンス
しっかり浮いてましたが、これは単純にケッサクというかおもしろかったです^^;;

by euridice (2008-07-29 09:15) 

rosina

IL TROVATOREと聞いてしゃしゃり出て来てしまいました。
私もルーナ伯爵は歌手がというか、バスティアニーニの得意役だったので役柄が、贔屓です。
でも、大抵のルーナ伯爵には失望させられてしまいます・・・。
バスティアニーニのルーナで頭が凝り固まっている自分が悪いのは判ってるんですけど。


by rosina (2008-08-04 18:49) 

euridice

rosinaさん、こんにちは。
>大抵のルーナ伯爵には失望させられてしまいます・・・。
マンリーコは単純、直情径行がいいけど、
ルーナ伯爵には複雑な性格を表現してほしいです。

>バスティアニーニのルーナで頭が凝り固まっている
いやぁ・・悪いとは全然思いません。
ワーグナーテノールの役はホフマンで凝り固まっているので、
この気持ちよ〜〜くわかります。
大抵どころかほぼ全部失望させられますから・・^^;;;

by euridice (2008-08-05 07:14) 

沙羅

この「トロヴァトーレ」NHKの放送を録画して、観ました。ものすごく楽しみにして観ましたが、結局、あの舞台装置は何だったのか?なんの役目も、無かったような気がします。途中、ボートに乗ってなんてのは、すごいなと思いましたが。
by 沙羅 (2008-08-09 13:27) 

euridice

沙羅さん
こういうのはやはり実演鑑賞すべきものなんでしょうね。
それもなんというか観光の一環として・・

こういうのを放送しちゃ悪いとまでは言えませんけど、
こういうタイプの上演の放送が主流みたいなのは残念です。
by euridice (2008-08-10 06:50) 

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