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新国立劇場 魔弾の射手 [劇場通い]

ウェーバー作曲のオペラ「魔弾の射手」の劇場鑑賞は、今回が初めて。以前にも書きましたが、序曲の一部を唱歌にした「秋の夜半の♪」と「狩人の合唱」は学校の音楽の時間に知りました。オペラ全曲はまずCD。C.クライバー指揮の全曲録音を図書館で借りました。とても気に入って、購入。繰り返し聴いたものです。そのせいか、これがいわゆるデフォルトになっているようで、今回の公演もしばらくはそこはかとない違和感がありました。

さて、新国の公演、なかなかおもしろくて、満足でした。終了後、今まで、ずっとひとつの旋律が頭の中で響きっぱなしです。どうも睡眠中も鳴っていたようです。

物語通りのごくまともな演出。主役の女性二人(アガーテとエンヒェン)以外の衣装と扮装、特にその他大勢の女性たちのは、民族色はわざと排したようでちょっと奇抜で変な感じ・・ 男性陣も多少なんだかね・・でしたが、まあ許容範囲。序曲の前に隠者とアガーテの短いお芝居がありました。客席が真っ暗になって、序曲はまだかと待っていたら、いきなり男のうめき声が響いてびっくりしました。隠者が悪夢にうなされたのでした。こういうのは映像でも見たことがあります。たしかシュツットガルトのがそうでした。ここで、アガーテの不安と隠者からもらった白バラのいきさつが語られます。このオペラ、モーツァルトの「魔笛」と同じように、台詞入りで、台詞によって物語が進行しますから、オペラ本編内でも台詞がけっこうたくさんあります。

狼谷の魔弾を作る場面は思いっきりおどろおどろしくやってくれました。映像を使っていたのだと思いますが、客席にまで何か怪しげなものが飛んできたりで、どきどき、わくわく、一緒に魔弾鋳造をやったみたいに疲れました。なんといっても悪人カスパールが熱演でした。

アガーテとエンヒェンは、その性格の違いがはっきりわかって、しかも、どちらも見栄えもよく、声も歌も魅力的。アガーテのしっとりした歌はともすると退屈ですが、まっすぐな美しい声が心地よかったです。エンヒェンの元気はつらつだったり、こっけいだったりする歌もやりすぎるとしらけますが、おもしろく楽しかったです。二人ともほんとうにそれらしく役柄ぴったりで華も実もある存在でした。花嫁の介添え役の娘たちの歌もよくそろって気持ちよく響きました。この公演でも男声合唱、すばらしかったです。またぞくぞくっときました。

フィナーレ。領主がマックスに永久追放を言い渡し、人々が慈悲を願っても、かたくなに拒否しているところに、隠者登場。領主は隠者の助言を聞き入れ、めでたしめでたしとなります。ここはキリスト教的な愛とゆるしと神への賛美の場面で、かつてはかなり退屈だったのですが、年齢のせいか、現代のギスギス、とげとげ、バッシング大流行の世相の中では、やはりこういうおおらかな寛容の精神こそ、個人にも社会にも肝要なのではないかとしみじみと感じさせられ、最近はこの場面が大好きなのですが、今回の公演でも胸が熱くなりました。

不満だったのは、肝心の主役マックス。マックス役のアルフォンス・エーベルツは、バイロイト音楽祭のラジオ放送で2005年以来、パルジファルとエリック(@さまよえるオランダ人)で聴いています。2005年に第一声を耳にしたとたん、「あ〜〜ん、こんなおじさん声、イヤッ!」と 思いました。つまったようなこもり声で、とにかく、美しくない・・・ エーベルツのマックスは、今まで生で聴いたテノールの中で最悪で、ほんと気持ち悪かった・・ 不安定な感じというか、落ち着かないんですよ・・ドイツ人だけど、口跡もぼやっと不明瞭だし・・ 声量だけは文句のつけようがないです・・から、よけい気分が悪くなるというわけです。フィナーレでは、もう諦めちゃったというか、慣れたというか、じゃまというほどでもなかったですけど、最初のアリア「この苦しみは希望を奪い~森を抜け、野を越えて♪」はおしりがむずむず、気分がいらいら、何なのよ、これ?!でした。外見は客観的には悪くないと言うべきでしょうけど、精神が感じられないでくの坊。こちらも「嫌い」の範疇にはいる、新国「さまよえるオランダ人」のエリック役で生の舞台でも出会ったエンドリック・ヴォトリッヒさえも格段に良かったと思えるほど、いけませんでした。関連記事:アルフォンス・エーベルツ

参考:♪この苦しみは希望を奪い~森を抜け、野を越えて♪
ラファエル・クーベリク指揮のCD(1979年)より
歌はルネ・コロ


悪魔ザミエル:池田 直樹。
表情が優しそうなのがちょっと残念でした。もう少し悪魔らしい凄みがほしかったです。

キリアン:山下 浩司。明るいバリトンが美しかったし、射撃大会に優勝して得意の絶頂という雰囲気がとっても様になっていました。それなのに、マックスの大根がかなり盛り下げちゃった・・

カスパール:ビャーニ・トール・クリスティンソン
まさに悪人面の顔写真そのままに、まさしく反省しない悪人カスパールでした。狼谷での魔弾鋳造も再終幕で魔弾の当たって死ぬときも迫真。なかなかの役者振り。その役にぴったりの悪人面が可愛かったです。

アガーテ:エディット・ハッラー
エンヒェン:ユリア・バウアー
それぞれ役柄にあった容姿、雰囲気。素敵な従姉妹同士でした。

クーノー:平野 忠彦
領主オットカール侯爵:大島 幾雄
隠者:妻屋 秀和
みなさんそれなりに・・というところ。領主様の珍妙なお飾りはなんだかね・・でしたけど。

指揮:ダン・エッティンガー 東京フィルハーモニー交響楽団
指揮姿がよく見える席でした。なかなか格好良い指揮者です。

演出:マティアス・フォン・シュテークマン
バイロイトで合唱に参加なさっていた花田夏枝さんの息子さんだそうです。
「さまよえるオランダ人」の演出もそうでした。わかりやすくおもしろい演出だと思います。

関連記事: 
舞台のハプニング 銃声がしない・・・
舞台のハプニング オケピットに帽子が・・・
魔弾の射手
魔弾の射手 ドレスデン1985年
魔弾の射手 シュトゥットガルト歌劇場1983年

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つるりんこ

旋律が耳に抱きつきますね!
by つるりんこ (2008-04-19 17:12) 

オデュッセウス

20日(日)最終公演で観る予定で楽しみにしていたのですが、事情により行けなくなってしまいました。意外と観る機会が少ない作品ですので、残念です。
それにしてもエーベルツ、ダメだったようですね(笑)。オデュッセウスはバイロイトでの件のパルジファルを生で聴きましたが、まあまあでしたよ。あの酷かったヴォットリヒのエリックよりも悪いですか?これは相当ですね(笑)。
by オデュッセウス (2008-04-19 21:27) 

keyaki

新国の、素晴しい最新設備を駆使したたいくつさせない舞台でしたね。
マックスの歌唱は、気の弱い、臆病なかんじは出てたかなって、もしかしたら風邪が直りかけとか....ドイツもの専門のテノールさんですよね。
私も感想を書きましたのでTBします。
by keyaki (2008-04-20 00:47) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコ歌劇場では、1985年に公演。

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id1787.pdf
by サンフランシスコ人 (2008-04-20 05:35) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコ歌劇が「魔弾の射手」を公演したのは、1985年のみです。
by サンフランシスコ人 (2008-04-20 08:46) 

euridice

つるりんこさん
耳にこびりついて離れない旋律満載ですね^^+

オデュッセウスさん
それは残念です。
オデュッセウスさんの感想、楽しみにしていましたのに・・
>エーベルツ、ダメ
目にも耳にも、全然私好みではなかったです。
耳だけのバイロイトの放送のほうがましだったかな^^?!

keyakiさん
舞台が動くとまず退屈しませんね。
じゃばらのような動くつい立て、すなわち、森林、
とても効果的だったと思います。

>ドイツもの専門
みたいですね・・検索してみたところ
ご活躍なのですから、当然でしょうけど、
大好きという方もいらっしゃいますし、
肯定的な方も少なくないです。
私はだめですけど、これはもう個人の好みの問題ですから・・

ご多聞に漏れず、生年はわかりませんが、
高等教育では数学、経済をまず学んだそうです。
それから、声楽をケルンの音楽大学で。
ヴュルツブルク市立劇場でオペラ歌手デビュー。
1983年から1985年まで端役を担当。
その後、三カ所ほどのオペラハウスと順次専属契約。
1997年にベルリン・ドイツ・オペラでエリックを歌ったという
記述も見つけました
2003年からフリー。
2004年にバイロイトデビュー(エリック@さまよえるオランダ人)。

サンフランシスコ人さん
1985年の公演のPDFを見せていただきました。
ホルライザー指揮、ピラール・ローレンガー(アガーテ)ルース・アン・スウェンソン(エンヒェン)マイケル・デヴリン(カスパー)ローランド・ブラハト(隠者)ドローラ・ザジック(花嫁の介添え)以上、映像視聴、録音などで、名前を知っている歌手でした。
by euridice (2008-04-20 20:03) 

ブル

本日最終公演みてきました。マックスはずり上げ悪声テノールで聞いてられませんでした。万年控え専門といわれるだけありますね。補欠に限って、レパートリーは広いようで。東京フィル、10年もやってるのに伴奏ひどいですね。指揮者もあきらめちゃって、ソリストと合唱を気持ちよく歌わせることに専念していたみたい。指揮者によってむらがありすぎる。シルマーとかルイージのときはすごく感動したんだけれど....
by ブル (2008-04-20 20:59) 

gon

gonは20日を観てきました。マックスは残念でしたが、指揮には満足しました。
by gon (2008-04-21 00:36) 

euridice

ブルさん
>ずり上げ悪声テノール
なるほど、こういう表現もできるのですね^^;;
とにかくデリカシーのというか、ニュアンスのかけらもないですね・・
あるのは大音量だけ。

>万年控え専門といわれる
そうなんですか。歌手歴、ご存知ですか。
最悪だったので検索中です・・

gonさん
>マックスは残念でした
普通のテノールで聴きたかったですね・・
みごとな初体験テノールでした。

>オーケストラ
=指揮となるのでしょうね。
刷り込まれた演奏などと比較すれば、・・・ですけど、
歌や舞台とずれたりしてなかったからよしよしでしょう。


by euridice (2008-04-21 07:19) 

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