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新国立劇場「さまよえるオランダ人」 [劇場通い]

新国立劇場、今回はワーグナー作曲「さまよえるオランダ人」です。劇場で鑑賞するのは初めて。録音を相当聴いてますから、どうしてもそれとの乖離を無意識に確認してしまうせいもあって、不満なところもありましたが、全体的に大満足、ぞくぞくするところも数カ所。特にフィナーレは鳥肌もの、身体に一瞬戦慄が走りました。いわゆる読み替えでもなんでもない、ごく素直な演出で、鑑賞側が自由に想像を膨らませればよいという感じです。舞台上の人物たちが視覚的に違和感がないのはほんとうにうれしかった^^;。素直にお芝居として楽しめます。父親の娘自慢も自然な、若くて可愛いゼンタ。歌もほんとに素晴しくて、大満足のもとでした。

勝手な不満をいえば、オーケストラ、めりはり不足。金管が数回ポワ〜〜〜ンという感じに、奇妙に聞こえてがくっとするところあり。舵取り、もうちょっと明るく澄んだ声が欲しかった。ダーラント、オランダ人との二重唱が寂しかった。エリック、われがねみたいな大声、慣用句じゃなくて、物理的に耳が痛い。オランダ人、なかなかいいけど、もうちょっとニュアンスが欲しい。マリーおばさん、どうしちゃったの?

合唱は張り切ってました。元気でよかった。女声合唱団は可愛い人が増えましたね。表情も豊かで素敵でした。

ちょっと考えさせられたこと。表面的にはゼンタは父親のことばに従ってオランダ人と結婚しようとしているわけです。エリックはいくらなんでも父親に従順すぎると彼女を非難します。ゼンタが夢中になっている男を偶然父親が連れてきたと単純にとっても別にかまわないと思うのですが、もしかしたら、なにか別の意味があるとも考えられるかもしれないと思いました。親が決めた相手と結婚するのが当然の時代、その相手を理想の男と重ねることで、受け入れる、一種の現実逃避とか・・ エリックの歌が全然美しくないから^^;...そんなことを考えながら、ゼンタとエリックの言い争いの場を眺めてました。 彼の発言って、けっこう的を得ているんじゃない?

ゼンタ:アニヤ・カンペ:ドイツ(旧東ドイツ)。ドレスデン、トリノ(イタリア)で勉強。1991年トリノ、グレーテル@ヘンゼルとグレーテルでデビュー(ネット検索)見るのも聞くのも初。

オランダ人:ユハ・ウーシタロ、1964年フィンランド。フルート奏者から歌手へ。1997年ファルスタッフ@ファルスタッフでデビュー(新国パンフレット)見るのも聞くのも初。
(江守徹が立っているのかと思った瞬間あり^^;)

エリック:エンドリック・ヴォトリッヒ、ドイツ。ベルリン国立歌劇場来日公演1997年(タミーノ@魔笛)のテレビ放送がお初。残念ながら、好きじゃなかった・・; 2005年バイロイト音楽祭で今回と同じ役、エリック@オランダ人、2006年バイロイト音楽祭ジークムント@ワルキューレをネットラジオで聴きましたが、やっぱり好きじゃなかったです。で、生の今回も・・ 波長が合わないのね。


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ななこ

おはようございます。

アニヤ・カンペの名前に反応してしまいました。

昨夜、モネ劇場の大野さん指揮のオランダ人をようやく見たところでした。
アニヤ・カンペが最高でした。
それで今日の自分のブログネタにと考えてたところでした。
男性歌手はみんないまいちでしたが、ゼンタが出てきて急に締まって魅力あふれる舞台になりました。

新国立にはとんとご無沙汰なのですが、いい歌手が来てるのですね~

オランダ人はワーグナー作品の中ではそう肩肘張らず気楽に楽しめるオペラでいいですよね。

チケット完売なのでしょうね・・・
by ななこ (2007-03-02 09:14) 

オデュッセウス

ほぼ同様の感想です。ヴァラシエンヌさんの感想も楽しみです!!オデュッセウスの詳しい感想は近日中に本家HPにアップしたいと思います。
by オデュッセウス (2007-03-02 10:55) 

keyaki

TBありがとうございます。こちらからもTBさせていただきました。

>舞台上の人物たちが視覚的に違和感がないのはほんとうにうれしかった^^;
こういう当たり前のことが、なかなかできないのよね。

アニヤ・カンペの興味深い略歴を見つけて、紹介してますので、ご覧になって下さい。
by keyaki (2007-03-02 15:13) 

Sardanapalus

keyakiさんのレポート同様、興味深く読ませていただきました。カンペはいつか日程を調整して生で見たい歌手リストに入れました!

>エリック:エンドリック・ヴォトリッヒ、ドイツ。ベルリン国立歌劇場来日公演1997年(タミーノ@魔笛)
ああ、あの人ですか!情報ありがとうございます。keyakiさんのレポートでバリテノールっぽい声と書かれていたのでどんな声?と不思議に思っていたのです。あのタミーノならば想像できます。
by Sardanapalus (2007-03-02 20:14) 

助六

牛太郎、カンペ、ヴォトリヒと、現状では第一級の配役でしたね。

カンペは容姿もピッタリのようですね。
小生もゼンタは、リゲンツァ、コネル、ハース、アンソニーとかダイエット前のヴォイトまで色々ぶつかりましたが、80年代半ばに聴いたジョーンズが舞台姿の存在感も歌も群を抜いてた感。第一声から舞台に妖気がみなぎるような。リゲンツァも歌・姿共に良かったですね。バルスレフもすらりとしたブロンドさんで姿は合ってましたが。


言われてみて、なるほどと思いましたが、そう言えば、ゼンタにとっての理想の男性との出会いが、親がカネと引き換えで婿を連れて来るという形で行われるのは奇妙ですね。でもゼンタは以前から部屋に掛かっている肖像画を通じてオランダ人に惚れていたはずだから、現実逃避で、親が決めた政略結婚を、無理やり待ち望んでいた結婚と思い込もうとしたとは思いたくないです。

この、父親がカネと引き換えに娘の結婚を決めると言う設定は、既にハイネの元ストーリーにあるし、確かに昔のブルジョワ社会では当たり前の習慣だったろうから、ヴァーグナーはその設定に従っただけとも言えますが、既成の権威に反逆する芸術家という面も、特にオランダ人作曲の頃はかなり持っていたヴァーグナーにしては、奇妙にも思えるし、ヴァーグナーもダーラントには、平凡・コミカルではあるにせよ、とりわけ意地悪・告発的とも言えない音楽を付けてますよね。

バイロイトのC・グートの演出が、ダーラントとオランダ人を瓜二つにしていたという話を思い出したのですが、そう考えると、これは面白い解釈だと思えてきました。ゼンタが深層的にファザコンで、オランダ人を通じて実は父親を求めているのなら、オランダ人が父親によって連れて来られ、ゼンタもサッサと受け入れちゃうのも道理だし、ライヴァルのエリックが、「カネ目当ての親父の言うことなんか聴くな」と親父をコキ降ろすのも納得が行きます。

エリックはハイネのストーリーには登場せず、ヴァーグナーが作り上げたものです。何でこんな音楽的にも面白くない役をわざわざ付け加えたのか。テノール役がないとは言っても、軽めの脇役で、ヴァーグナーが付けてる音楽も平板だし。

エリックは、海の男社会の中でただ一人猟師として、既成秩序の外にいる人間だし、一見、ブルジョワ拝金結婚を告発してるように(その意味では当時のヴァーグナーの分身に近く)も見える訳ですが、エルザからすれば、自分のオランダ人への愛(あるいはそれを通じての父親への憧憬)の方が彼岸的なホンモノで、エリックは俗世的ダサ男と映ってるようです。ヴァーグナーは、エルザとオランダ人には深遠っぽい「夜的」音楽を与え、エリック(とダーラント)にはネアカ「昼的」音楽を与えてます。エリックの台詞上の「封建道徳」批判は、少なくとも音楽的には「振られた兄ちゃんの繰り言」としか響かないような。
そうしますとヴァーグナーは、一見「深遠で芸術的」選択であるエルザの結婚が、実は封建因習墨守であることを台詞で指摘するために、わざわざエリックという人物を登場させ、しかもそのエリックの批判は実は表面的で、エルザの選択のほうがホンモノであることを音楽で示すという手の込んだ手法を実行していることになります。

つまりエリックは、「一見(台詞上)反逆児、実は(音楽上)俗物」
エルザは、「一見(結婚選択上)因習墨守、実は(音楽上)深遠」
ファザコンの気のあるエルザの憧憬対象は、「一見(人物上・音楽上)深遠なオランダ人、背後に(人物上・音楽上)俗物の父親」

という登場人物全員が二重性を持った構図を描けるのではないかと。

ヴァーグナー自身が48年三月革命に参加して亡命を強いられるほどの反逆児であったと同時に、後年は王室に取り入る俗物性もふんだんに備えた人物であったようです。
ヴァーグナーが、エルザの二面性を浮き彫りにするために、エリックという人物を導入し、そのエリックについても二重の描写を行ったり、エルザの献身的純愛が、拝金結婚と言う形で現実化するという設定を温存した背景には、そうした事情が影を落としてるのかも知れません。特にオランダ人とダーラントには、ヴァーグナーは自身の二つの面を無意識のうちに嗅ぎ付けていたとか。

とんだ牽強付会に発展してしまいましたが、御笑覧まで。
by 助六 (2007-03-03 11:57) 

euridice

Sardanapalusさん、助六さん、コメントありがとうございます。

>登場人物全員が二重性を持った構図
興味深く読みました。音楽だけに身をゆだねるのも心地よいですが、いろいろ考えるのもおもしろいです。
by euridice (2007-03-03 23:30) 

しば

大変遅くなりまして申し訳ございませんが当方もTBさせて頂きました。いつもありがとうございます。

>舵取り
確かに・・・・言われてみればもうすこし輪郭のある声というかくっきりした感じで聴きたかったですね。
アニヤ・カンペさんにすっかり気を奪われてしまっておりましたが。
by しば (2007-03-18 23:01) 

euridice

しばさん、どういたしまして。TB、ありがとうございます。

>輪郭のある声というかくっきりした感じ
そうそう、そういうことです。
by euridice (2007-03-19 08:45) 

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