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ポンキエッリ「ジョコンダ」ウィーン1986年 [オペラ映像]

まだオペラを見始めのころ、テレビ放送があったもの。一通り見たと思うのですが、ほとんど何も覚えていませんでした。ひとつ、有名な「時の踊り」のバレーが物語をなぞったものになっていておもしろかったというのが記憶に残っていました。keyakiさんのブログでこのオペラが取り上げられたのを機に、再視聴しました。

バレエは、相思相愛のエンツォとラウラ。横恋慕してラウラを奪ったアルヴィーゼが、ついにはエンツォとラウラを殺すというバレエでした。そして、このバレエの振り付けは、すでに妻のラウラに毒薬をのんで死ぬように命じて来たアルヴィーゼがお膳立てしたということで、誰よりも楽しそうにバレエを眺め、時折ちょっかいを出し、ついに最後には、バレエのアルヴィーゼ役が殺害したラウラ役を自らエンツォ役の屍の上に重ねます。

なんだか、カヴァレリア・ルスティカーナ、オテロ、トロヴァトーレ、ルクレチア・ボルジアなどを、つまみぐいしてはめこんだみたいな筋立てと人物設定です。

悪役バルナバの支離滅裂な歌は、あたかもヤーゴのクレドのようです。それに陽気で巧みな扇動者振りもヤーゴの亜流という感じ。バルナバを信用するエンツォはさしずめオテロ。
ジョコンダの母親を魔女だと言って人々を煽動したり、屋敷内で娘を待っていたと思われる彼女をまたもや魔女だと言い立てて捕らえたりするのはトロヴァトーレを思わせます。

自分に恋しているジョコンダを突き放して、かつての恋人との愛を全うしようとするエンツォはカヴァレリアのトゥリドゥにも似ています。エンツォとしてはジョコンダに対する感情は妹に対する愛だったらしいですが・・・ジョコンダはそうではなかったんですから、それが男にわからないはずはないと思いますから、単なる言い訳かも・・・ 
仮死状態をつくる毒薬はルクレチア・ボルジアにもロメオとジュリエットにも登場するし、嫌な男に身を任すとウソをついて、毒をあおって死ぬのは、やはりトロヴァトーレ。このオペラでは、毒も持っていたはずなのに、ナイフによる自殺ですが・・・

意に反して別れ別れになって、偶然再会するエンツォとラウラは、ジークムントとジークリンデ。ジョコンダの強さと激しさはトスカに似ています。

ラブシーンはエンツォとラウラに。ジョコンダは要するに片思い。片思いの男を救うためにしろ、嫌な男から逃れるためにしろ、少なくとも当時のキリスト教徒にとって絶対悪の自殺!を遂げるわけです。それにしても、話の進め方は、相当強引です。

フィナーレが、ナイフで胸を刺して倒れたジョコンダに、仕返しとばかりに、母親を殺したと悪態をついたものの彼女の絶命を知って、突如死の恐怖におののくという感じで駆け去るバルナバというのもなんだかね・・・です。

ジョコンダのお陰で逃亡できたエンツォとラウラは一生彼女に感謝するのでしょう。エンツォ、ちょっと前にはののしっていたのに一転『貴女は聖女のような人だ!』と叫んでましたし..... 別れの前にラウラに因縁のロザリオを託すところは、まるでヴィオレッタが肖像画をアルフレートに渡す雰囲気。

ポンキエッリ(PONCHIELLI, Amilcare1843-1886):ジョコンダ
アダム・フィッシャー指揮
フィリッポ・サンジュスト 演出
ウィーン国立歌劇場1986年

ジョコンダ(ヴェネチアの歌姫):エヴァ・マルトン
エンツォ(ジェノヴァの貴族):プラシド・ドミンゴ
アルヴィーゼ(ヴェネチアの司法長官):クルト・リドゥル
バルナバ(アルヴィーゼの部下):マッテオ・マヌグエラ
ラウラ(アルヴィーゼ夫人):リュドミラ・セムチュク
チエカ(ジョコンダの母親):マルガリータ・リロワ

この映像のエヴァ・マルトンは、また雰囲気ががらっと違います。トゥーランドットでもエルザ@ローエングリンでもマッダレーナ@アンドレア・シェニエでもトスカでもなく、これがジョコンダなんだと思えます。父につきあって見ている昼間の再放送サスペンスによく登場する女優さん、名取裕子を思い出しました。
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エンツォ『僕がずっと想っていたのはラウラだけ・・・』だったみたいですねぇ.....
この場面、あるいはこの衣装のエンツォが一番精悍に見えます(^^;;


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コメント 8

Cecilia

「ジョコンダ」観たことがありませんでした。
どうも「明日のジョー」であのお嬢様が少年院慰問に行って踊る場面を思い出してしまいます。
バレエの群舞の衣装が、ドガの踊り子の絵に似ていますね。
by Cecilia (2006-09-29 10:31) 

keyaki

TBとリンクありがとうございます。
ここは、あのオペラのあそこに似てる、、とかいろいろありますね。
音楽的には、ヴェルディからヴェリズモへの橋渡し的位置にある作品だそうですよ。教え子のマスカーニはともかく、プッチーニの方が有名になってますけど。
ジョコンダのアリアなんて、ふと、サントゥツァが歌っているのかと錯覚します。
こちらからもTBさせていただきます。
by keyaki (2006-09-29 14:10) 

Orfeo

edcさん、こんにちは。TBありがとうございました。
なんか、ものすんごい話なんだけど、ドミンゴとマルトンの熱唱で感動させられました。オペラって、偉大だなあ・・・(笑)。
TB返しさせていただきました。
by Orfeo (2006-09-29 18:23) 

euridice

Ceciliaさん
映像、これしかないようですし、再放送も全然ないような気がします。めったに見られないオペラのひとつかもしれませんね。

>「明日のジョー」であのお嬢様が少年院慰問に行って踊る場面
「明日のジョー」、実は名前しか知りません。お嬢様は「時の踊り」を踊るんですか?

keyakiさん
オペラになじんでから見たほうがいいですね。十数年前に見たときに比べれば、格段におもしろかったです(^^;;

Orfeoさん
>ものすんごい話
にも納得させられちゃいますね..... 声の威力は凄い・・・
by euridice (2006-09-29 22:55) 

>カヴァレリア・ルスティカーナ、オテロ、トロヴァトーレ、ルクレチア・ボルジアなどを、つまみぐいしてはめこんだみたいな筋立てと人物設定

言い得て妙!ほんとにそうですね。
私もこの映像のマルトン好きです。

それにしても、「空と海」は大好きなんですけど、その歌われるシチュエーションを深く考えすぎると...(^_^;)
by (2006-09-29 23:49) 

euridice

りょーさん
マルトン、いいですね^^! ほとんどの映像を見ましたが、R.シュトラウス以外はどれも好きです。

>シチュエーションを深く考えすぎると...
?^^?
by euridice (2006-09-30 07:26) 

coyote

多分同じ放送の時に録画したVTRを持っています。
エンツォという役柄がどうしても好きになれません。
>『貴女は聖女のような人だ!』
ここで「その前にジョコンダに謝れ!」とTVに向かって突っ込んでしまいました。
キャストは好きなんですけどね…。
by coyote (2006-10-02 23:52) 

euridice

>エンツォ
嫌な奴ですよね..

登場人物の人間関係の中で、エンツォ、ラウラ、アルヴィーゼなどからすれば、ジョコンダは身分違いで同じ種類の人間には入っていないってところでしょう。ジョコンダだって、エンツォの身分を知っていたら、好きになったりしなかったんじゃないかしら・・・ 
by euridice (2006-10-03 09:00) 

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