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パトリス・シェロー(2) [人々]

すでに何度も書きましたが、パトリス・シェローこそ、ペーター・ホフマンにとって最高の演出家ということでしょう。一緒の仕事は、バイロイト音楽祭の「ワルキューレ」のみです。シェローはいわゆるオペラ演出家ではありませんから、度々一緒などという歌手はいないでしょう。

主なオペラ演出は、ワーグナー:ニーベルンクの指環(バイロイト音楽祭)、オッフェンバック:ホフマン物語(パリ・オペラ座)、ベルク:ルル(パリ・オペラ座)、ヴォツェック(ベルリン国立歌劇場)、 モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ(ザルツブルク音楽祭) ドン・ジョヴァンニ以外は映像があります。今年2005年の夏エクサンプロヴァンス音楽祭で、コジ・ファン・トゥッテを演出する予定だそうです。

シェローの演出を一言で言うなら、「歌手自身が自らの意志で動いているという気分にさせる」ということでしょうが、これはあらゆる人間関係の理想でしょう。これができれば、教育にしろ、仕事にしろ、うまくいくこと間違いなしですが、なにしろ簡単にできることではありません。また、この才能の発揮の仕方や場を間違えると、怖い結果も招きかねません・・・ いわゆるカリスマ性というものでしょうか。

ペーター・ホフマン:
「シェローの下では、骨の折れる仕事が待っていることを知りながら、喜んでリハーサルに行った。彼は、非常に数少ない演出家にしかできないこと、つまり、長期間にわたって私たちにやる気を失わず意欲的に参加させることに成功した。実際、私たちは彼と共に、1976年から、夏ごとに、1980年まで、仕事に没頭した。いかにして彼がそれをやり遂げたのかを、究明しようとしたが、結局のところ今日に至るまでわからない。これが芸術というものだ。内部者の立場から見た芸術だ」

ギネス・ジョーンズ:
「シェローは歌手たちと大いに共働していますが、愛があります。そして、歌手はそれを感じています。彼は仕事が好きですし、芸術家たちが好きです。そして、芸術家たちは彼が気に入っています。彼が言うことをとにかくやりたいと思うのです」

パトリス・シェロー:
「.......歌手たちには、自家撞着、思い込みの解消、考えを変えること、見られることに対する感性と興奮を教えることが必要だと思う。歌手たちがその身体と歌唱によって、物語の暴力性や残酷さを支えるように、要求しなければならない。歌手たちには、心の動揺や痛手はすっかり自分のものとしてもらいたいし、孤独をただ単に演じるのではなく、それを感じてもらいたいし、そして、当然のことながら、同時に、演じること、舞台で生き、存在することの変わらぬ喜びを感じてもらいたいと思う。その時、その場を支配している音楽的歓喜に相当する喜びがあるはずだ」

歌手たちは自分の出番のないところでも練習を見たりしていたようです。「ラインの黄金」のリハーサルでの話です。
「神々のワルハラ入城のところで、斜に渡した一本のロープで、神々のマントが引き上げられて、ハンガーに掛けられることになっていた。私たちは笑いをこらえていたが、ぷっと吹き出してしまった。私は「うまくいかなかったら、観客は怒って座席を壊すかも・・」と不吉なことを言った。シェローは、私たちがどれほどゆゆしい問題を見つけたかということを理解した。そして、後で、空飛ぶマント作戦?をすっかり取り止めにしてしまった。しかし、それを試してみるこの勇気・・・今私が話すのは、あとになってから天才的なものが裏にひそんでいたということがわかったということだ。中がからっぽのマントたちを引っ張りあげるとは! いずれにせよ、この神々は、からっぽの存在で、そこには実もふたもないに等しいわけで、身体が上昇しようが、身分をあらわす衣服だけだろうが、全くどうでもいいのだ。しかし、これは伝わらず、このシーンは神々の奇妙な一生を通じてお蔵入りになった。そこでは「リング」全体の中でも、まず葬送行進曲に匹敵するほどの、最高に華麗な音楽が響き渡っている。それは示威的かつ虚栄に満ちていて、そこではそれ以上のどんなクライマックスも設ける必要などありはしなのだ」〜1983年の伝記から

写真は1995年、映画「王妃マルゴ」のプロモーションのために来日したときのパトリス・シェロー(音楽の友誌)

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シェロー演出のワルキューレ(1)
シェロー演出のワルキューレ(2)
ルネ・コロとパトリス・シェロー
DVD:シェロー演出の「ニーベルングの指環」
The Making of the Ring:内容動画:ユーチューブ(ひとつの動画は部分的で短いですが、連続再生します)





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コメント 1

keyaki

>今年2005年の夏エクサンプロヴァンス音楽祭で、コジ・ファン・トゥッテを演出する予定だそうです。
そろそろ、リハーサルに入る頃ですね。ライモンディが出演予定ですのですので、注目してます。
TBさせていただきました。
by keyaki (2005-06-09 15:40) 

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