SSブログ

輝かしい成功物語の歌手-1 [1983年刊伝記]

「英雄たちを創造したとき、ワーグナーはペーター・ホフマンの姿を思い浮かべていたのだった」ペーター・ホフマンに対する批評

  「ペーター・ホフマンだという理由で、ワルキューレとローエングリンを見た。彼によって、私はオペラファンになった。彼はこれらの公演で自ら発信することによって望んだものをつかんだ、すなわち、オペラに若者を呼び寄せたのだ。」 ペーター・ホフマンのテレビ録画を見た17歳の若者の投稿

 ペーター・ホフマンは、ワグナーの理想的タイプと一致していて、いかにも納得させるものだった故に、オペラ界の頂点にその声が登場したとたんに、確かな成功を手に入れたのだろうか。それとも、自分でたてた目標を確実に達成してきた彼の意志がその成功を確かなものにしたのだろうか。そのワーグナーにふさわしい姿こそがキャリア作りにおいて、最大の役割を果したのだろうか。 クラシック音楽の厳格な境界から自由になろうという欲求から、ポピュラー音楽とショー・ビジネス界へ寄り道し、一般大衆の支持を得たのだろうか。それとも、これは観客の共感という、いわば大衆心理的現象であって、要するに一切の説明を受け付けないものなのだろうか。ドイツのマスコミは、彼を「スーパースター・ホフマン」と持ち上げ、売り物にした。ドイツ中のジャーナリストが大喜びで、ペーター・ホフマンがどんなに感銘を与えたかとか、要するにペーター・ホフマンとはこういう人物だとかを、描写しようとした。「最も若い、最も成功している世界的ワーグナー歌手」「獅子座生まれ」「広い肩幅、細い腰、金髪の巻き毛、青い目」と書き立てるかと思えば、一方では、「上から下まで薄紫色」あるいは「ワインレッドのTシャツを着て」「革の服かジーンズを身につけ」「スポーツマンらしくスニーカーを履いている」などと、その外見を取り上げて、書き立てた。それだけで終わりはしない。「頭のてっぺんから足の裏まで185cm」「骨の髄までスポーツマン」「若きジークフリート」「ワーグナーの巨人」「ドイツの勇士」「大天使ガブリエルのような豊かな金髪の素敵な若者」等々。マスコミは、人々が「高い評価を受けている黄金の喉のヘルデンテノール」に対して、彼の舞台上の姿だけではなく、馬が好きだとか、モーターバイク狂だとか、自宅にプールがあるとか、テニスをする、ジョギングも、手には槍を持ち、足にはスケート、等々、あらゆることに好奇心を示しているということを、しっかりと心得ていた。バイロイトの吟遊詩人、クラシック音楽の女神に愛されるスーパー・スターであり、その生活は、まるでメルヘンの世界だ。それに、何と言っても、おおかたのご婦人たちの好みのタイプ。魅力的な世界的ローエングリン以上のものだ。ポピュラー音楽のスーパー・スター、上品な暴走族的ローエングリンなども「売りもの」になるし、テレビのスターであると同時に、ロック・スターでもある、かっこいいスーパー・スターで、ディスコ歌手。英雄ではなく、マジソン・スクエア・ガーデンのポップ・ミュージシャンでありたいと思っているテノール。
 ロックやポップスのイメージを抜きにしても、彼は偉大なヘルデンテノールの決まりきったイメージからも逸脱していたどころか、『クラシックの鎖を引きちぎり』『見知らぬ世界に踏み込んだ』 要するに、『古くさいオペラは死んで、ペーター・ホフマンが生き延びた』のだ。 ドイツ連邦のマスコミを引用するかぎり、こういうことだ。疑問は解決されないままだ。ペーター・ホフマンとはいかなる存在であり、彼の成功の理由は何だったのだろうか。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。