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新国立劇場「タンホイザー」 [劇場通い]

新国立劇場サイトの動画、舞台写真、配役などからの予想をすっかり裏切ってくれました。舞台写真、毎度のことですけど、だめですね・・ まあ、舞台写真のほうがよくで、実際の舞台や登場人物の姿にがっかりするよりはいいのかもしれません。

まず、舞台が美しかった。何と言えばよいかしら、いわゆる写実的な舞台じゃないけど、照明の具合でしょうか、とても絵画的。中世の物語絵を見るようでした。

中でも、エリーザベトはまさにその絵の中の高貴な女性そのものに見えました。正面も後姿も、どこから見ても立ち姿が実に美しい。2幕の冠をつけた正装、とても似合って、今まで見たエリーザベトの中で、映像のギネス・ジョーンズにまさるとも劣らぬ気品、ひたむきさ、強さのある清純な美しさでした。3幕、タンホイザーの救いを求めて祈りつつ立ち去る後姿は、まさに聖母マリアの絵姿の趣き、非常に印象的でした。

タンホイザー、これが意外や適役。声はこもり気味で、お顔に似合わないという感じだけど、だんだん気にならなくなりました。ローマ語りはもうちょっと暗めの声でやってほしいなんて思いましたけど、他人は知らず、私のイメージに相当ぴったり合ったタンホイザーでした。これも、全体的にすらりと細い身体つきに不似合いなぽっこり腹はとっても残念だけど、背丈があるせいか、それほどだらしなく見えなかったので、許しちゃいます^^; 分別顔した偽善的世間からはみ出てしまう、子どもっぽい、ばか正直な、利口に立ち回れない、そういう人物が、そこに存在していました。そう、感情移入できるタンホイザー・・ バイロイトの映像のスパス・ヴェンコフのタンホイザーに共通するものがあったと思います。生の舞台だけに、より強く迫ってきたようです。

2幕、エリーザベトがタンホイザーをかばうところ、胸がいっぱいになって、目に涙・・。そして、3幕も胸が熱くなりっぱなし。音楽と舞台とやんちゃぼうずのようなタンホイザー、聖エリーザベトと呼ばれるにふさわしい高貴で清楚なエリーザベト、そして、やっぱりよかった大人の雰囲気のヴォルフラム、舞台に現れたときはその大きさが衝撃的だったけど、まさしく芳醇な美の女神だったヴェーヌス、すばらしく心地よい合唱にすかり絡めとられてしまいました・・ もう一度行きたいです! 大満足、あっという間の4時間でした。

タンホイザーのボンネマ、やはり成長なさったんだ・・と思いました。ローエングリンのときは、どうも緊張しすぎて堅くなってたようです。映像で見たシュツットガルトのジークフリート@神々の黄昏も、今回のタンホイザーと同様、独自の個性的なジークフリートがそこにいました。声と歌にほれぼれというものではないけど、大した役者さんです。

それにしても、タンホイザーで涙があふれそうになるとは思いもしませんでした。

字幕で気になったことがひとつ。ローマ教皇ですが、「教皇」と「法王」が混在していました。一般的には従来「法王」が使われているようですが、カトリック教会は「教皇」としてほしいと要望しているようです。

新国で再会の歌手が多くなりました。忘れてしまっていたり、いつも印象的だったり、いろいろです。やはりさすがオペラ歌手、俳優でもあるわけで、役によってずいぶん変わるものなんですね・・

*タンホイザー:アルベルト・ボンネマ(オランダ)
ローエングリン1997年 印象に残りませんでした。好きな声じゃないですし・・ シュツットガルトの神々の黄昏のジークフリート、お芝居がとてもおもしろくて、よかったです。今回、メタボ腹は別として、見直しました。声と歌に関しては、ちょっとね・・の部分が少なくないですけど・・ 心理状態を如実に刻一刻と反映する顔の表情がいい・・そう、いたずらっ子のような表情がかわいいです・。・)

*ヴォルフラム:マーティン・ガントナー(ドイツ)
(ベックメッサー@マイスタージンガー2005年、ロドリゴ@ドン・カルロ2006年 ベックメッサーから注目、しっかり認識しました)

*領主ヘルマン:ハンス・チャマー(ドイツ)
(ポーグナー@マイスタージンガー2005年、ロッコ@フィデリオ2005年 映像で名前を知ってました。いつも落ち着いたベテランの雰囲気です)

*エリーザベト:リカルダ・メルベート(ドイツ)
(フィオルディリージ@コジ・ファン・トゥッテ2006年 全然覚えてませんでした・・ エリーザベト、とてもよくて、うれしいびっくり^^ 全体的な雰囲気だけでなく、顔の微妙な表情が豊かで、しかも、歌うことで崩れることがなく、常に気品がありました
・・)ヨーロッパの昔の物語の絵とか聖画とかに描かれた女性の雰囲気と、あとどこかで見たような・・と感じていたのですが、やっと分かりました。無声映画「ニーベルンゲン」のクリームヒルト。あの雰囲気。全然現代的ではない存在感の美人・・ 今夏ネットラジオで聴いたバイロイト音楽祭の「タンホイザー」でもエリーザベトだったのでした。

*ヴェーヌス:リンダ・ワトソン(アメリカ)
(ブリュンヒルデ@ワルキューレ2002年 同一人物だったとは!...全然気がつきませんでした・・雰囲気違い過ぎのような・・かなりびっくり、信じられない気持ちです・・2度も見たのに・・ブリュンヒルデ@ワルキューレ、ズボン姿だったせいかしらねぇ??? このブリュンヒルデにはむしろ好感を持ったのに、その後、映像の、クンドリー@パルジファル、ジークリンデ@ワルキューレ2003年バルセロナは、とても印象が良くなくて、嫌いなソプラノという印象を持って、今日の舞台にのぞみました。まさか、あのブリュンヒルデだったとは・・ また印象が良くなりました・・今回のお姿、あの、各種映像でおなじみのモンセラート・カバリエそっくり^^!)

*ヴァルター:リチャード・ブルンナー(アメリカ)
(エギスト@エレクトラ2004年、ワルター・フォン・シュトルツィング@マイスタージンガー2005年 ちょい役のエギストでなぜか注目しました。シュトルツィング、とてもよかったです)

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オデュッセウス

これは楽しみになってきました。郵送予約でまさかここになることはないだろう、と思っていた最終日24日の公演に行きます。ボンネマ氏、期待!!
そういえば指揮者はオケはいかがでしたでしょうか?もしよろしければ簡単で結構ですのでお願いします!!
by オデュッセウス (2007-10-17 22:26) 

euridice

オデュッセウスさん
もういらっしゃったのかなぁと思っていました。

>指揮とオケ
序曲、ちょっとぬるいかなぁと感じましたけど、2幕、3幕と、
次第に盛り上がって・・
オーケストラについてはどうも言葉が足りないのですが、
オケがよくなかったら、感動できなかったと思います。
私としては総合的に文句なしです^^;
けど、よかった〜〜の順位的には最後かも・・ 
舞台、エリーザベト、男声合唱、タンホイザー、ヴォルフラム、
ヴェーヌス、オケ、バレーというところでしょうか。
by euridice (2007-10-17 23:51) 

蘭丸

先週サンフランシスコで観たタンホイザーはヴェーヌスとヴェーヌスブルグの演出に不満が残りました。映像と写真を拝見しましたが、これなら楽しめたと思います。短い映像ではボンマネの声不安定に聴こえますが多分これはドレスリハーサルで撮影したのでしょうね。
by 蘭丸 (2007-10-18 09:22) 

ヴァランシエンヌ

私も昨日行って来ました。
とてもいい上演で満足できましたが、またしても息を詰めてしまって、激しい頭痛に苛まれる結果に・・^^;
来日公演よりも遥かに常識的なお値段で、あれだけの演奏が聴ければ御の字ですよね。
やはり生で見聞きするワーグナー、格別の感がありますね。
by ヴァランシエンヌ (2007-10-18 10:26) 

euridice

蘭丸さん
舞台装置は基本的には変わらないのですが、柱の位置、背景、照明、映像などで、幕ごとに、全く違う場所に見えました。すばらしく美しかったです。

>ボンマネの声
そこまで言わなくても・・の、ぼろくその感想が少なくないです・・動画もそうですけど、特に1幕はやはり、不安定なんでしょうし、輝かしさにも欠けていて、物足りなかったととか、対して、3幕はもっと暗めであってほしかった・・とか、まあ聞き惚れる歌ではなかったと思います。けど、とにかく声楽的なことはわかりませんので、横に置いておきまして、次第にその人物的存在感が伝わってきて、総合的に満足の域に達したと思います。なにしろスリムな身体にしては度を越している、舞台人なんでしょ、お腹以外は若者体型保ってるんだから、もうちょっと頑張ってほしいとつくづく思ってしまった、ぽっこりメタボ腹も、だんたんと見ない〜〜気にしないという気分になりましたから・・ まあ、1997年のローエングリンですでにお腹がぽっこりっぽかったです・・
by euridice (2007-10-18 10:33) 

euridice

ありゃ、ヴァランシエンヌさん、かぶっちゃいましたね・・

>来日公演よりも遥かに常識的なお値段
まだそう言えますけど、値上がり傾向、厳しいですね。演目によって違いますが、タンホイザーの場合、S席一般だと3万円の方に近いじゃないですか。しかも、1階は全部S席。以前はサイドや最後部何列かは、A席だったのに・・それにしても、ほぼ満席状態。人気ですね。文化庁主催で確かに力入ってました。テレビ放送してほしい・・
by euridice (2007-10-18 10:39) 

ヴァランシエンヌ

>S席一般だと3万円の方に近いじゃないですか

あ、そういえばそうでした(^^;;;
(今回自分がB席を会員割引で購入したことを、忘れていました^^;;;)

確かに、1階が全部S席というのは割に合わないですよね。個人的には、1階で後ろのほうになってしまうのならば、上の階のほうがいいかなぁ、なんて思ってます。ほどよく傾斜も付いてますしね。
by ヴァランシエンヌ (2007-10-18 11:24) 

ななこ

>スパス・ヴェンコフのタンホイザーに共通する

えええっ~
観たくなりました。
でも日程みると・・;;

テレビ放送本当に期待します。
カメラが入ってたという情報はないのでしょうか?
by ななこ (2007-10-18 17:53) 

Sardanapalus

今回の「タンホイザー」は毎度イマイチの舞台写真とあのクリップだけでも「見てみたい」と思わされる演出です。最近の退廃的演出の流れとは一線を画して、ヴェエーヌスベルクの非現実的な雰囲気が良く出てるように見えます。しかも美しいエリーザベト!これは見逃せませんね(^^)私もテレビ放送を希望します。

>>ボンマネの声
>そこまで言わなくても・・の、ぼろくその感想が少なくないです
タンホイザーには期待が大きい分、評価も辛口になりやすいのかもしれませんね。私もあのクリップだけ見て「カツゼツを何とかして欲しい」と書きましたが、そんなつまらないことよりも、演技力と表現力のある歌手なんですね。euridiceさんとヴァランシエンヌさんのレポートで、私もボンネマに大注目です!
by Sardanapalus (2007-10-18 22:14) 

yokochan

レーマン演出は安心して観ていられます。
オープニングに相応しい、豪華さと誰でもが納得できるわかりやすさがあったと思います。
メルベトは、おっしゃるように美しく気品があり、<聖母マリアの絵姿の趣き>、ホントそうでした。
私も2幕の最後は感激してしまい、涙がでました。
彼女、ティ-レマンのバイロイト・タンホイザーの放送でも聴き、この場面がものすごくよかったです。
新国のレパートリーとして、このメンバーで定着させて欲しいものです。TBさせていただきました。
by yokochan (2007-10-18 22:58) 

keyaki

あれれぇ、どこからかボンネマがボンマネになってる...(笑

>そこまで言わなくても・・の、ぼろくその感想が少なくないです
ほんと、ほんと、私も言ってみたいけど、本当にそうなら、干されてるんじゃないの......なぁんちゃって。
私は「夕星の歌」が狂ってたらわかるけど、あとは、わかりましぇん。

私も見てきましたので、書いたらTBさせていただきますので、よろしくお願いします。
by keyaki (2007-10-18 23:20) 

euridice

ななこさん、Sardanapalusさん

お勧めですけど・・
>>スパス・ヴェンコフのタンホイザーに共通する
これ、タンホイザーの扱い方が・・&あくまで雰囲気です。
声、歌は相当違うと思いますので、期待過剰は禁物かな〜^^;;

それと、合唱団、歌はすばらしいけど、
衣装はちょっと似合わない感じでした。
中世ヨーロッパの貴族だと思うのにはかなり苦労しました
ついでに、彼らが一斉に手のひらを上にして
両腕を掲げる動作、しらけました。唯一、くさかったというか、
さぶかった演出でした。

>テレビ放送本当に期待
ですよね!文化庁の主催なんですから、あってもいいというより、
やるべきだと思います・・
by euridice (2007-10-19 08:31) 

euridice

yokochanさん
TBありがとうございます。

>レーマン演出
大いに感動した「エレクトラ」もこの人の演出だったんですね・・
物語の本質をすんなりと直感的に分からせてくれる演出だと思います。
それに舞台がほんとに美しい。

>ティ-レマンのバイロイト・タンホイザーの放送
そうなんですね。エリーザベトのところ、もう一度聞いてみます。

>このメンバーで
そう、やっぱり歌手が最重要要素ですね・・
by euridice (2007-10-19 08:48) 

euridice

keyakiさん
TBありがとうございます。

>どこからかボンネマがボンマネに
ほんとだ〜〜〜 私のコピペからだから・・^^;;

>ぼろくそ
まあ、聞こえ方は各人各様だと言いますから・・
感覚って実際人によってずいぶん違うと実感します。
もっとも安定性、普遍性が高いと思われる視覚でさえ、
色などの感じ方になると、かなり違いますもんね・・
言葉による表現にばらつきが出るのかもしれませんけど。

聴覚は、同じ音でも、快、不快の違いが大きいですね。
騒音裁判などでも、認識の違いを痛感させられます。
例えば子どもの声、うるさいと思えば耐え難くても、
子どもなんだから当たり前とか、愛情があれば、
逆・・
「遊ぶ子どもの声聞けば 我が身さえこそゆるがるれ」

話がずれちゃったかしら^^;;
by euridice (2007-10-19 08:59) 

字幕、他にも変なところがありましたね。婢女(はしため)→碑女になっていたところが…
今回の歌手は、自分にとっては余り好みではなかったです、残念ながら。。。
by (2007-10-19 22:56) 

euridice

gonさん
>婢女(はしため)→碑女
あららですが、これは気がつきませんでした。

>残念ながら。。。
残念でした・・けど、
好みは違って当たり前と思います^^+
by euridice (2007-10-19 23:10) 

OGASHI

今回の『タンホイザ』最高でしたね。
もう一度見ましよう^^)

毎回TBありがとうございます。(私もTBさせていただきました)
これからもよろしくお願いいたします。

では、失礼いたします。 m(_ _)m
by OGASHI (2007-10-22 18:40) 

euridice

OGASHIさん
こちらこそ。
TB、ありがとうございます。

>最高でしたね。
ほんとに^^!!!
やっぱりもう一度!ですね〜〜〜
by euridice (2007-10-23 08:20) 

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