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ワルキューレ メトロポリタン・オペラ来日公演 [劇場通い]

あんまり気がとがめない値段のチケット入手で、最終日、でかけました。遠い席や見えない席には懲りているはずなのに、のど元過ぎればです。遠くても正面で、NHKホールは角度的に、眺めは良さそうという判断の通り、小さくてもよく見えましたし、音も大きく聞こえました。

演出は映像化されているオットー・シェンクのものということで、確かに見慣れた風景でした。でも、多少違うのかもしれません。色彩は濁っており、照明も暗めで陰気。スポットライトも控えめで、人物も装置に沈むところが多い感じです。音の聞こえ方がちょっと不思議。すべての音の位置が並列的とでも言えばいいのでしょうか。舞台奥で歌ってかえって大声に聞こえたのにはあれ?!でしたし、二幕でフンディングとの決闘に倒れたジークムントのものと思われるはぁはぁと喘ぐ息の音にもびっくり。フンディングがヴォータンの一言で倒れたときのコッツーンという音も凄かったです。きっと痛かったでしょうし、大きなコブができたかも・・・ そして、ワルキューレの騎行だけが、なぜか、遠近感のはっきりした演奏に聞こえました。オーケストラも全ての音が混じり合って鳴るというよりは、金管が唐突に響き渡るという感じを度々受けました。一番遠い席だったわけですが、とにかく全ての音が、声は常時オーケストラの前に位置して、大きく聞こえてきました。

私好みのワーグナーの「ワルキューレ」から言えば、なんと言っても老いたドミンゴでしかないジークムントが脚を引っ張った公演だと思いますが、ドミンゴだからこその満員の大盛況は否定できないでしょう。そして、私自身もはじめて目の当たりにする《オペラ界の至宝》ドミンゴを楽しんだ一人です。

あの初心者に安心して勧められるという言葉を頻繁に目にする演出、装置、衣装などは、ニューヨークではないにしても実演に接して思ったことは、ビッグネームあるいは、強烈な存在感のある歌手の存在なくしては、退屈以外の何物でもないのではないかということです。

2幕半ばのヴォータンとブリュンヒルデの対話は少々退屈で、私もうとうとさせてもらいました。一番盛り上がって、あのメロディーに胸がキュンとしたのは、三幕前半、ブリュンヒルデがジークリンデを連れて登場から八人のワルキューレたちがヴォータンの剣幕に散り散りに逃げ去るまで。三人のソリストの歌にそれぞれ胸が熱くなりました。

私にとって、視覚、聴覚両面で、よかったのは、一にフリッカ、二にブリュンヒルデ、そして、フンディング。

フリッカ役のメゾ・ソプラノは、コヴェントガーデンの「トロヴァトーレ」映像のアズチューナでしたが、ずっと美人に見えて素敵でした。

ポラスキのブリュンヒルデはバイロイトのFM放送を聞いたし、バルセロナのを映像で見ましたけど、好きじゃなかったのですが、意外に素敵でうれしかったです。私の嫌いなあのぼろ系衣装がよく似合って、若い精悍な娘らしさが際立っていました。難を言えば、動きが多少鈍なことぐらい。歌も2幕のヴォータンとの対話は多少だれる感じでしたが、三幕の前半は特に魅力的に感じました。特にジークリンデに受胎を告げ、子どもの名前を決めるところは、あの旋律が好きなこともあって、胸が熱くなりました。

フンディング、動くと少々難あり、つまり、立ち姿が今ひとつの感があります。姿勢があまりよくない。歩き方ももうちょっとなんとかしてほしい。ところが、静止した特に腰を降ろした姿は決まって、若さが匂い立つような荒々しい精悍な若殿という感じ。もっと近くで見たかった!大事な妻を略奪された彼にこそ同情しちゃいそうでした。歌は、フリッカもですが、言葉の切れが冴えて耳に心地よかったです。

さて、正直、お目当てのドミンゴはまさにドミンゴで、録音で幾度か聞いたワルキューレとほぼ同じ。まあ、かなりはしょってましたけど....って、別に歌詞を抜かしたとかではなくて、なんというか、適当に流しちゃうような....録音でも多少感じます。ノートゥングを抜くあたりからは、相当なもの。抜いたあとはもう適当も適当。さすがに大ベテランというところかしら... そして、同じあたりから、完璧によれよれ、よろよろ、疲労困憊という印象。遥か遠目でも、終始、身体の線にも、表情にも老いがもろに出て・・・若く美しいジークムントをイメージするには無理がありすぎました。

私的にはちょっと唖然の、水、たぶん水^^? をがぶがぶは、一応演出に取り込まれているわけで、演出の一貫として違和感がないのかもしれません。平ための金属製に見える食器で、何度も飲むんです。ジークリンデに愛を語りながら。で、最後に舞台奥に空になった食器をボーンと放り投げました。2幕でもやけに舞台袖や岩陰に消えてましたから、きっと飲んでるんだと想像してしまって、もう舞台全体がギャグって感じでした^^;

指揮:アンドリュー・デイヴィス(ジェームズ・レヴァイン)ジェームズ・レヴァイン
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
演出:オットー・シェンク
NHKホール 2006.6.21

ジークムント:プラシド・ドミンゴ(ペーター・ホフマン)ゲイリー・レイクス
ジークリンデ:デボラ・ボイト(ジャニーヌ・アルトマイヤー)ジェシー・ノーマン
フンディング:ルネ・パーペ(オーゲ・ハウグラント)クルト・モル
ヴォータン:ジェームズ・モリス(サイモン・エステス)ジェームズ・モリス
ブリュンヒルデ:デボラ・ポラスキ(ヒルデガルト・ベーレンス)ヒルデガルト・ベーレンス
フリッカ:イヴォンヌ・ナエフ(ブリギッテ・ファースベンダー)クリスタ・ルートヴィヒ

ちなみにこの演出の新演出初演は1986年で、上記(  )内がその時の配役です。映像は1990年の公演、配役は三番目。


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コメント 4

keyaki

日本で言えば、人間国宝級のドミンゴのジークムント、役柄を選んで頂きたいものです。なんでもいいから歌ってくれぇ、歌ってくれて感激というのって......まあ、ドミンゴ祭りなんだから、真っ当なことを言うのは野暮よ、ということかしら。
他の方のレポートで、最終日が一番良かったってのを目にしましたが、じゃあ、他の日は? と想像できないですよ。

水をがぶがぶは、演出とは思えませんが。パヴァロッティがもうまともに動けなくなってからですけど、メトでトゥーランドットに出演、舞台のあちらこちらに水が用意してあったとか見に行った人から聞いたことがあります。
駆け上がって、ドラを叩くところ(映像ではドミンゴがかっこよくきめてます)なんか、パヴァロッティは、定位置で動かず、ドラを叩く係がいたとか。
いずれにしろ、演出だとしたら、おかしな演出ですね。

私の記事をTBさせて下さい。
by keyaki (2006-06-23 09:26) 

Sardanapalus

euridiceさんも(当然?)行かれたのですね。映像よりも暗い舞台って、珍しいような…収録のときに思いっきり明るくして撮ったんでしょうか?euridiceさんも気にいられたイボンヌ・ナエフのフリッカは見てみたいなぁ。

>水、たぶん水^^? をがぶがぶ
文章を読んでるだけで笑ってしまいました。もし会場にいたら、絶対にそっちが気になって集中できないです~。
by Sardanapalus (2006-06-23 20:11) 

euridice

また、ぎりぎりの駆け込み鑑賞です。

>イボンヌ・ナエフのフリッカ
フンディングもですが、フリッカも、もっと近くで見たかったです^^;

>>水!水!
こういうのは、観劇の楽しみのひとつですね!
邪道かもしれませんけど・・・
by euridice (2006-06-23 23:04) 

サンフランシスコ人

メトロポリタン歌劇場の次回の日本公演は、2011年でしょうか。
by サンフランシスコ人 (2008-05-24 06:03) 

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