ある女性評論家のホフマン@エリック論あるいは讃 [PH]
エリックとは、ワーグナー作曲「さまよえるオランダ人」に登場する若い猟師で、悪魔の呪いによって、七年に一度だけ上陸を許されるだけで、永遠に海上をさまよいつづける幽霊船の船長オランダ人の絵姿に恋している娘ゼンタの恋人です。たぶん幼なじみでもあると思われます。ゼンタはエリックよりもオランダ人に夢中・・ お話はちょうどその七年目、やはり船長のゼンタの父が、なんとそのオランダ人を客として連れて帰って来ます。エリックの立場は急転直下、現実的に捨てられた恋人に。いさぎよく身を引くどころか、ゼンタにつきまとうわけですから、今風にはストーカー男と確定されかねません。
P.ホフマンもこういう優柔不断な男は理解できないそうで、こういうところでは、運がよかったのでしょう、舞台では一度も演じていませんが、ファンとしてはうれしいことに、カラヤン指揮の録音があります。カラヤンの希望は断れなかったようです。
そこで、カラヤンとの録音では、エリックを、捨てられた恋人ではなく、ゼンタを心から大切に思っていて、間違いから守りたいと思っている、ゼンタのことを心配する友だち、として表現しようと試みたということです。
このCD、毀誉褒貶が極端で、何故このような録音が発売されえたのかというものから、このオペラの録音として最高の一枚と絶賛、しかもホフマンのエリックが殊更にすばらしいというものまで・・^^! 関連記事:カラヤンとのオランダ人&ローエングリン
さて、おなじみマリア女史のホフマン@エリック評です。
ホフマンは「さまよえるオランダ人のエリック」にも同じ力強さと魅力を与えて、ワーグナーが要求したように、捨てられた求婚者を、オランダ人の、説得力のある引き立て役にすることができる。 ホフマンはヘルベルト・フォン・カラヤンのために、ドゥニャ・ヴェイゾヴィチのゼンタ、ジョゼ・ヴァン・ダムのオランダ人との共演で録音した。彼は情熱的で魅力的で自信あふれる、エリックという若者を描き出す。彼のゼンタに対する報われない愛は、オランダ人の要求に対して、見事な均衡を与える。彼の声域はこの役の高い音域に楽々と適合し、繰り返される高音部分を、やすやすと見事にやり遂げる。それは、楽々とした華麗な抒情性を要求されるときと全く同じだ。最初の登場のときから、最後に幕が降りるまで、注目を集めるエリックがいる。 二幕でエリックがゼンタとはじめて向かい合うとき、彼は自尊心と決断力を示す。このエリックは哀れっぽくもなければ、脅迫的でもない。彼は自らの強い気持ちとかつての愛情から生まれる誠実な感情をぶつけてゼンタを取り戻そうとする。 ホフマンの歌う、生々しい夢物語は、忘れ難い。彼は変化に富んだ多彩な音色を駆使して悪夢の物語を紡ぐ。ホフマンがその官能的な声で物語る悪夢にはぞっとするほどの具体性を帯びる。彼は、ゼンタをおびえさせようとしているのではなく、自分自身が気にかかっていることを彼女と共有したいがために、夢の話をするのだ。その存在の奥底から絞り出される、ホフマンの暗い、切望的な叫び声 Mein Traum sprach wahr!(あの夢は正夢だった)には、彼の喪失の悲しみの苦痛に満ちた現実が貼り付いている。 三幕のカヴァティーナとフィナーレの合唱では、愛する人を助けようと全力を尽くして奮闘する。ホフマンのエリックは、最後の悲痛きわまりない叫び声、Verloren!(失われた!)に至るまで、希望を捨てない。 |
TBありがとうございます(^。^/~~~~
こちらからもTB&エリックのことを書いたところに、さり気なくリンクしてあります^^
この録音、改めて聴き直してみたら、やっぱり良い演奏だと思いました。メリハリの付け方や、スケールの大きさは、劇場で聴くのとはまた違った趣がありますね。
最後の3重唱、私も大好きですが、ここにクリップを置いて下さると、気軽に聴けるようになって、助かります(^^!
by ヴァラリン (2006-01-19 08:09)
アレ、カラヤン盤って毀誉褒貶いろいろありなんですか。
どうしてでしょう?カラヤン=ベルリン・フィルの演奏、凄いとおもうけど。ヴァン・ダムに底知れない暗さみたいのが無いのが原因でしょうか。
ゼンタはもしかすると、ザルツブルクの舞台でうたったリゲンツァの方が、適役だったかもしれませんね。
by TARO (2006-01-19 23:13)
ヴァラリンさん
これだけわくわくする演奏はそうはないと思います^^ne!
TAROさん
>どうしてでしょう?
ね?
カラヤン嫌いは少なくないみたいですし、
ヴァン・ダムもホフマンもけっこう好悪が分かれるようだし・・
>リゲンツァの方が適役
と思う人も多い・・とか、まあいろいろあるんでしょうねぇ^^?
by euridice (2006-01-20 07:31)