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知らない舞台で - 客演も仕事のうち [PH]

ネコだって、日々、新たな経験を求めてます・・
歌手も先が見えない行き当たりばったりの舞台を、楽しんでいるようです。

「・・・私は夢を見ている・・・私が舞台で背中を押されているのを見下ろしている、こんな風にその夢は始まる。上から眺めると、奇妙な衣装を身につけてるようだがよくわからない、人垣の中をあとずさりしながら、私を押しやる人々に尋ねる。

『一体全体、これはどういう作品なんですか、何を・・・』

人々は口々に『はい、出て、出てください。さっさと出てください』と言っている。そこで、私は舞台に出る。演劇なのか、オペレッタなのか、オペラなのかすら、わからない。

舞台に出ると、私の登場に対して拍手喝采のどよめきがおこる。私はどうやら夢の中の人々に何だか信用があることはまちがいないようだ。それから、私はオーケストラ・ピット、指揮棒をあげている指揮者を目にする。ああ、オペラかオペレッタだ。

しかし、どうやら指揮者は私の出だしを待っているらしい。そこで、私は思う。指揮者があらかじめ調子をとってくれさえすれば、私が何を期待されているのかおよそ見当がつくのに。しかし、何もおこらない。絶体絶命だ。大きく口をあけて、疑いようもなく意欲満々の完璧な姿勢。そして、私は始め、音楽がわき起こる。もちろん完璧に見当はずれだ。たいてい、ここで目が覚める・・・」(ペーター・ホフマン)

歌手の場合、いきなりの代役などでの客演ということが、こういう夢の主な原因なのでしょうが、歌手に限らず、だれでも自分の職業に関して、似たような夢をみることはあるのではないでしょうか。今はそういうことはないのですが、前は、代役ならぬ代用で、いきなり・・ というのはあったせいか、何をやるのかわからず、いざとなるととんでもないことをやる羽目になっている夢をよくみたものです。実際はけっこう気楽で楽しいので、好きでしたけど・・(この辺は、歌手と共通する気分かも・・;)

P.ホフマンは、「まったく前触れもなく突然日程が決まる」代役をとても楽しいと感じていたと言います。

「ヴィスバーデンの『ワルキューレ』のときには、舞台装置をちらっとも見たこともなかった。ジークリンデは最終的に飛行機でやってくることになっていて、私がまったくあっと言う間に永遠の恋に落ちるはずの私の双児の姉妹をだれも知らなかった。そもそも私は自分に何が起こっているのかさえ知らなかった。すごいじゃないか。演劇の作為性はこういう時にはほとんど消えてしまう。少なくとも少しは。だれでも自分が、生まれた瞬間からこのかたリハーサルしたことなどない、初めて起こった現実の状況にいるような気がする。初めての事態のように思える、ということは、同時に、冒険である。................ 

........ 状況に応じて行動すること、申し合わせたのではない反応を受け止めることこそが、真の楽しみである。」(ペーターて・ホフマン)

  「(突然の)客演がなかったら、この職業はもっと退屈なはずだという私の主張にだれもが賛成するだろう。クラウス・キンスキーがかつて、リハーサルするのは好きじゃないと白状したことがある。これは、私が一瞬感じるリハーサル時の感覚と同じだ。数年前にはまだこの感じに気がつくことはあり得なかった。そうこうするうちに次第に、あまりにも頻繁にこんな体験をするようになっていった。朝のリハーサルで私が得るものは、演出家の空虚な話、さらにもっと無意味な私のも含めた歌手たちの話、なにもかもがある種絶望的な様相を帯びていて、休憩時間までやっとの思いでその絶望状態をしのいでいるという有様だ。シェローを見てみろ、こんなことは絶対にあり得ないことは確かだ。」(ペーター・ホフマン)

歌手は、シェローの演出を経験したあと、「オペラに対して大きな不快感を感じるようになった」と言います。
それほど、シェローは特別だったわけです。

「私の職業では、どのぐらいたくさんの役ができるかということではなく、どの役ができるかということが重要だと思う。私が、恐れるべき競争相手がすくない役、あるいは、私のために「あつらえられた」役を好むのは自明のことだ。私の公演の大部分は、とりわけこのレパートリー的理由で、客演ということになる。この悪名高い客演がなかったら、長い間には自分の仕事をいやいやするようになっただろう。創造的であること、そのための場所を、私は客演で得ている。私は自分自身を頼りにしているし、自分を頼りにできなければならない。決定的な瞬間に正確に反応する。まえもっては決してわからない状況が起こる。その時、何かをなんとか考えだして、とっさに行動することが肝要だ。」(ペーター・ホフマン)

関連記事:舞台のハプニング いきなりの客演とは・・・ 


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コメント 8

TARO

>だれでも自分の職業に関して、似たような夢をみることはあるのではないでしょうか。

これは当然そうでしょうねえ。私も最近はあまりストレスがないので見ませんが、ニュースをやっていたころはよく仕事の夢をみました。生放送でアナウンサーが止まっちゃうとか。取材終わって局に戻ったら、ニュース時間が過ぎてたとか。そんなのばっかり。

ところで2枚目の写真は何をしてるんでしょうか?ぶら下がってるんですか、とんでるんでしょうか?
by TARO (2005-09-07 15:57) 

euridice

>ところで2枚目の写真は何をしてるんでしょうか?
跳んでるんだったら、すごいでしょう。なにしろ、二本脚で跳んでるわけで・・・

網戸を、それ!それ!やっ!やっ!と、もう頭二つ上ぐらいまで登った後、降りてきたというか、ずり落ちてきたところです・・・
by euridice (2005-09-07 17:49) 

euridice

>夢
東京中、怪しげな交通機関に乗って、さんざん乗り換えて、駆け回ってて、全然職場につかないとか、着いたら着いたで、なぜか「古文」とかを教える羽目になってる・・・ 
by euridice (2005-09-07 17:54) 

Sardanapalus

ホフマン氏の夢の話、面白いです(笑)職業病というか、職業夢?といったところでしょうか。

>代役をとても楽しいと感じていた
頼もしいですね!誰かの代役で今夜はペーター・ホフマンがジークムントを歌います、とかアナウンスされたら、私だったら大喜びですね(笑)

代役つながりということで、こちらからもTBさせていただきました。
by Sardanapalus (2005-09-07 19:56) 

にぃにぃ

ご無沙汰しておりました。写真のハイデ姫があまりにかわいいので…(^^)
>それ!それ!やっ!やっ!
これ、うちの猫もよくやります(笑)。ほんとにこんな掛け声あげて真剣に登っいきますね。で、うちの奴は『はれ?なんで俺、こんなことしてんだろー?』って顔で
ボーゼンと飼い主の顔を見つめてきます…。(知らないよ~)
>夢
ホフマンさんの文章は非常に硬質で論理的で、平明な表現に慣れすぎている私には難解なことが多々ありますが、このお話は面白かったです。
>>代役をとても楽しいと感じていた
>頼もしいですね!
本当にそうですね!それにこういう歌手は珍しいのでは?急な代役でも、失敗したらキャリアの全てを失うことにもなりかねない訳ですから…。
by にぃにぃ (2005-09-07 22:50) 

euridice

Sardanapalusさん
TB、ありがとうございます。
観客の代役あるいは、歌手のキャンセルに対する反応は、いろいろみたいですね・・

にぃにぃさん
しばらくです。
>ハイデ姫があまりにかわいい
どうもありがとうございます^^! にぃにぃさん宅のネコちゃんも同じことをするんですね。ハイデは最近、覚えました・・

>難解なことが多々あります
そうですね。特に古いほうの伝記の文章は難解でした・・ 
著者も書いてますが、ホフマン氏、非常に独特の話し方をするようです。
http://blog.so-net.ne.jp/euridiceneeds/2005-09-02-1

読みやすい日本語にするのが、また、難しくて・・ 
私の能力不足で、読みにくくて済みません^^; が、
なんとか読んでいただければ、うれしいです。
by euridice (2005-09-08 07:26) 

SomethingPrecious

はじめたばかりのブログ、偶然覗いたeuridiceさんの雑記帳の世界であまりに興味深いお話の数々に出会い、ハマってしまいました。伯父が歴史だけは古くオペラやバレーの演奏では一応日本では定評のあった某交響楽団におり、(とっくに退職してますが)小さい時から練習場についていったり、定演というと楽屋裏から入れてもらっていました。記事もさることながらコメントのやりとりも何だか懐かしい雰囲気、私は素人ながらこれからも拝読させてください。蛇足ながら我が家にも猫がおり、Timという名と麻呂という名の二つで呼ばれております。洋猫ですが公家面というもっぱらの評判です。
by SomethingPrecious (2005-09-10 10:13) 

euridice

きまぐれな人魚さん
はじめまして。お宅のネコちゃん、ぜひ会いたいです^^;
いつかブログに登場、楽しみにしてます。
by euridice (2005-09-10 13:54) 

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