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新国立劇場「タンホイザー」2回目 [劇場通い]

このオペラの題、全部言うと「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」で、左の写真は、ドイツのチューリンゲン州に実在するヴァルトブルク城。

1階のかなり前の方のチケットがあったので再び出かけました。おつきあい以外で同じ公演を複数回観たのは「ワルキューレ」以来。シーズン予約で第一希望が外れたのは初めてでした。2階のごく前の方でしたが、1階の前方席に慣れてしまうと、遠いです^^;; 長所は舞台全体がほどよく見渡せること。たとえば、今回の場合も、序曲中、柱がせり上がってくる迫力、凝った床の様子など、2階からの眺めがはるかにまさっていました。ヴェーヌスの洞窟、緑の森、場内大広間、秋の森と照明と柱の位置、背景などで変わる舞台も、2階から観たほうが印象的でした。但し、歌合戦中に起こる変化は1階で観たときのほうが強烈でした。一方、人物の表情などに関しては、近ければ近いほど感動が増すのは間違いなし。というわけで、この組み合わせで2度行くのが最高かも・・ 前の方で一度見ていれば、次回は2階でもあまり遠く感じないような気がします。

オーケストラ:
やっぱり最初ぬるいというか、多少もたつき感がありました。指揮とオーケストラの呼吸が微妙に合わないというような感じも。でも、徐々に気にならなくなりました。

バレー:
これは振り付けも扮装も好みではなかったです。まあ、バレーは映像でも、いいと思ったことがない。難しいんでしょうね。ヴェーヌスの洞窟をどうとらえるかとかも・・近くで見たらますますグロテスクでしたけど、主役カップルは美しかった。でも、やっぱりちょっと退屈。

タンホイザー:
音程が不安定とか歌詞を間違えたとか、プロンプターに頼りっぱなしとか、悪評も少なくないですけど、音楽ジャーナリストの常套句を拝借すれば、それを上回る演技力と存在感があったというところ。声はちょっとこもり気味であまり美しいとは言えないし、歌い方は無理矢理ねじ伏せるような感じ(これも常套句拝借^^;)も。でも、こういうのもタンホイザーのようなエキセントリックな非常識人の役にぴったりと言えなくもないと思います。なんだか怪しげな声のようなものが聞こえることがありましたが、やっぱりプロンプターの声だったんですね。イメージは人によって違うでしょうけど、私にとって、まさに役にぴったりの外見。納得のタンホイザーでした。

ぽっこりお腹は、近くで見たほうが気になりませんでした。近くでさらにオペラグラスでのぞいても十分タンホイザーの顔でした^^; かなり濃い化粧。おかげで、2階でも顔の輪郭がとてもはっきりしていたのでしょう。少しグレーがかった薄い感じの青い目が、遠くまで表情を伝えるのはやはり舞台人としての視線の力、存在感でしょうか。ちょっといっちゃった雰囲気は当然意図的なものでしょう。こういう微妙な人物像、けちけち時代でZ席ではないけど再安席だったということもあるにしても、10年前のローエングリンでは露ほども感じませんでした。テレビ録画でもあまり感じないから、あながち席のせいでもないと思います。

エリーザベト:
声も歌も容姿も動きも文句なしのエリーザベト。一途にひとりの男性に心酔する無邪気さと無自覚に愛に溺れることなく、かといって、愛を放棄することもない意志の強さ、2幕フィナーレ以降は、まさに聖エリーザベトを彷彿とさせました。聖エリーザベトという名前はおなじみでしたが、どういう聖人かは知りませんでした。そこで、便利な時代になったものです、ちょっと検索。なんと、13世紀、ハンガリー王女でチューリンゲンの領主の妻だった人なんだそうです。(興味があれば、こちらに詳しい話があります。右の写真は、ハンガリーはブダペストにある聖エリーザベトの像)

異論のあるところですし、私も心から納得でもないですけど、女性こそが男性を守るべきものという、カトリック的女性を体現していて、フィナーレ近くのタンホイザーの台詞「聖エリーザベトよ、私のためにとりなしてください」がはっきりと耳に入り、不覚にも胸がいっぱいになりました。

舞台のエリーザベト、2階から見た全体像も美しかったですが、近くで見る姿も負けず劣らずよかった。遠くても、表情はしっかりわかるし、心の動きが強烈に伝わってきましたが、近くだとさらに良し。存在感倍増。時代劇、コスチューム物にふさわしい容貌なんだと思います。現代的ではない、中世的な美人なんじゃないでしょうか。で、思い出したのが無声映画「ニーベルンゲン」のクリームヒルト姫。それはともかく、舞台写真や顔写真より断然良いということは、加えて、舞台映え、化粧映えがするし、その上、舞台上で自然体に見せる演技力があるということなのかもしれません。

ヴォルフラム:
近くで見ると、より友情と信義に厚い常識人ぶりが伝わってきました。中世の武人兼歌人のイメージだと思いました。映画「ニーベルンゲン」を思い出したところ、このヴォルフラム、ちょっとだけ、ドイツ諸侯の一人、リュディガーの雰囲気・・かな?

チューリンゲンの領主、へルマン:
遠くからでも、近くでも、あまり印象が変わりませんでした。いずれにせよ、堂々とした、そして、慈愛にあふれた、決断力のある、立派な領主。

ヴェーヌス
近くからの方が、表情がずっと豊かでした。より人間的に見えたような気がします。大きさの印象は変わりませんでした。

合唱団のドイツ中世貴族たち、見慣れたせいかもしれませんが、近くで見るほうが様になっていたような気がします。巡礼たちは、どちらから見てもほぼ同じ印象でしたが、今回は衣装に縫い付けたたくさんの十字架が目をひきました。

フィナーレの民衆が持つ杖、2階からだと認識しにくかった芽吹いた緑の葉が印象的でした。タンホイザーが救われたことを証明しているわけですから、しっかり見せてほしいものです。ここは世間もタンホイザーを許し、むしろ直接天上に迎えられた者として認めた、いわば列聖こそされないものの聖人につらなったものということ。司祭の杖が芽吹いたのを見て、それを知り、感動のあまりその杖を担ぎ出した人々に自ずと共感してしましました。領主が杖をタンホイザーの上に置いて、最後の音楽がわき上がる・・ むかしの人々の素朴な信仰に一時、浸った気分でした。

結論。2階で観た一回目に増して、より頻繁に胸がいっぱいになりました。音楽自体が涙腺を刺激するのは、プッチーニの専売特許ではないようです。ローエングリンに似た旋律もありますけど、タンホイザーのほうがより抒情的、感情的なのかもしれません。

これで10月に集中してしまった生オペラ三昧も一段落。次は12月新国のカルメンです。一連の劇場通い、どれも行ってよかった^^+ 気分高揚ですけど、あえて順に並べると、タンホイザー>トリスタンとイゾルデ>モーゼとアロン>フィガロの結婚>ドン・ジョヴァンニ かな^^?

タンホイザー1回目後の感想
新国タンホイザー鑑賞前に

付け足し〜ま、いいけど、の疑問と不満のメモ:
★1幕、ヴェーヌスベルクからチューリンゲンの森に変わるところ。王冠をつけ、いばらの冠?を手にしたヴェーヌスが牧童を導いてきました。えっ?何? ヴェーヌス=聖母マリアって言いたいの?! 意味不明・・ 忘れることに・・したので、今まで思い出しませんでした^^;;
★森の中、マリア像があるほうが物語に合っていると思いますが、今回は、キリスト像無しの十字架だけ。視覚的にすっきりと象徴的にしたということだろうとしぶしぶ納得。観客にも十字架のほうがわかりやすいと思ったのかも。
★これもオペラでは日常茶飯事なので、気にしないことにしました。祈っているタンホイザーを見つけた昔の仲間たちが「身につけているものからして、騎士のようだ」と判断しますが、ほんとにそうだ!とは思えませんでしたけど、「騎士の格好」の権威でもないし・・
★3幕、ただてくてく歩いてのヴェーヌスの出現と消滅もがっかり。もうちょっと劇的にやってほしかった・・ 巨大な柱がせり上がって来たときの、ああいうわくわく感が再び味わえるような、ダイナミックなやり方だったらよかった。
★3幕、人々が運んできた杖が、見えにくかったので、筋を知らないと、彼らが何故に大挙して走り出たのか、すぐにはわからなかったかも。それに、2階からだと若葉を確認するのはさらに難しかった。どこからでも、だれでも自然に目が行くような形にしてほしかったです。花が咲いてたという人もいますけど、私には二度とも花は見えませんでした。

参考:オペラ「タンホイザー」のあらすじ


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コメント 8

YUKI

こちらでは少しご無沙汰していました。(^^;)

オーケストラと指揮が会ってなかったら指揮者の方は大変だったかもしれませんねぇ。(^^;)

タンホイザーの歌手、色々言われているのですねぇ。(^^;)

プロンプターがいるオペラ公演は実演ではまだ鑑賞した事がないのですが、声が客席まで聞こえてしまうのはビックリですね!(^^;)
by YUKI (2007-10-26 11:03) 

euridice

YUKIさん、こちらこそ。

>色々言われている
私としてはお芝居をとっても楽しめたので大満足。
幸せです^^+

劇場に足を運べば、楽しさゼロなんてことは
めったにないですけどね・・
色々言うのも楽しみのうちということだと思います。
by euridice (2007-10-26 18:49) 

オデュッセウス

そうですか、2回目の観劇ですか!?オデュッセウスも体力もあって独身だった数年前は新国『神々の黄昏』4回観劇しましたが、疲れてしまいもうダメそうです。
それにしても今回の『タンホイザー』、予想をはるかに上回る素晴らしい公演で、オデュッセウスも本当に感激しました。随所で涙が出て困りました。
次はドレスデン『タンホイザー』です!!
by オデュッセウス (2007-10-26 20:32) 

ななこ

多少無理をしてでも行けばよかったと悔やんでいます。
でも、2度にわたっての詳細なレポート読ませていただいて私なりに舞台を想像しています^^

ヴァルトブルグ城、クリックしたらエリーザベト・・ リヴタイラー?
映画「オネーギンの恋文」のタチアーナでしたからちょっと??
こちらのサイトの方のイメージなんでしょうね?
楽しませていただきました^^

朝顔、まだ咲いてるのですね。
ご近所で宿根の琉球朝顔が咲いてるのは見かけます。
by ななこ (2007-10-26 23:32) 

euridice

オデュッセウスさん
>随所で涙が出て
そうでしたか。同様です。「嗚咽」がかすかに伝わってきたような気配もあったような・・ たまたま近くに、各幕開始前に、批判を並べていた人がいましたが、より多くの人が感動したのは間違いないと思います。なにはともあれ、大感動、大満足のタンホイザーに出会えて、幸せです。

>ドレスデン『タンホイザー』
感想、楽しみにしています。
by euridice (2007-10-27 10:30) 

euridice

ななこさん
>ちょっと??
ですね^^; 
エリーザベトで検索したら出てきたのですが、
なんでロードオブリングの妖精の王女さまがいるの?!と
びっくりしました。そう、サイトの主のイメージなんでしょう・・
ちょっとおもしろかったし、
他の画像が美しいのでリンクしました。

>朝顔
今朝もむっつぐらい咲いています。
いつまで咲くかしら・・
by euridice (2007-10-27 10:35) 

あるべりっひ

こんばんは。
おかげさまで、無事復活です!

東京在住の時であれば、間違いなく足を運んでいる公演でしょう。
やはり、地方にいると実演からはどうしても遠ざかってしまいます。交通費+宿泊代が重くのしかかってきますし・・・・。

それにしても素晴らしい公演のようですね。
羨ましい・・・です。
by あるべりっひ (2007-10-29 01:26) 

euridice

あるべりっひさん
>無事復活
おめでとうございます!

>地方にいると
ほんとに首都圏に住んでいるおかげだと思っています。
地方育ちですから、実感です。

だから、テレビ放送は義務だと思うのですけどねぇ・・
by euridice (2007-10-29 07:10) 

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