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歌手対演出家 歌手の疑問にこたえる [人々]

ドイツの有名なバス歌手カール・リッダーブッシュは、率直な性格で、「思っていることを言う」人、すなわち、相当なうるさ型の文句言いと認められていたようです。バイロイト祝祭劇場で、1976年夏に、はじまった、パトリス・シェロー演出の「ワルキューレ」のリハーサルでの、小さな出来事は、「論理でいわゆる不平家を納得させることができるのだということ」で、ホフマンの心に残ったのだそうです。

リッダーブッシュ(Bs)は、ホフマン演じるジークムントの生き別れた妹ジークリンデと略奪婚をしたフンディングでした。映像のフンディング、マッティ・サルミネン(Matti Salminen, 1945.07.07-  フィンランド)とダブル・キャストだったのでしょう。彼が現れる前から、シェローとリッダーブッシュの関係がどうなるか、その人柄を知る人たちは、興味津々だったのです。二人は初対面です。

ワルキューレ第一幕のリハーサル、リッダーブッシュは、さっそくシェローに質問します。

フンディングのリッダーブッシュは、立ち去ろうと身体の向きを変え、オーケストラは剣の動機を奏で、ジークリンデは、ジークムントに目で武器のありかを知らせようとしています。そこ、そこ、ちゃんと見て、そこよ!、という具合に、彼女があまりにもこれみよがしに視線を投げれば、かなり困った感じになることもありうるところです。だれにでもわかるのに、ジークムントだけがわからないのです。わかってはいけないのです。
ここで、フンディングが質問!
リッダーブッシュ「剣を見ないようにするには、私はどこに立つのですか」
シェロー「どういうことですか。 あなたは黙って見ていればいいのです」
リッダーブッシュ「私は剣を絶対に見ないはずです、だって、剣のことは秘密なんだから」
シェロー「どうして秘密なんですか。フンディングとしてのあなたは、あなたの屋敷の真ん中にあるトネリコの木に、剣が突き刺さっていることを、知っているはずだと思いますよ。フンディングのあなたは自分ですでに試してみたとは思いませんか。『来る客、去る客、最高の力自慢が刀を引っ張りました』とあります。あなたは力自慢の男なんだから、だれも見ていないときに、一度は引き抜こうと試してみたに決まっています。でも、当然、うまくいかなかった。あなたは大きさはジークムントの二倍はあって、太っていて重い、だから、自分ができなければ、ジークムントは未来永劫できるはずがないと、内心せせら笑っているのです」

これに対して、リッダーブッシュは、多少不機嫌な様子で、ちょっとぶつぶつ言っただけだったそうです。そして、休憩時間に、リッダーブッシュはホフマンをわきへひっぱっていって、シェローのことを「ばかじゃないな」と言ったのだとか。

カール・リッダーブッシュ(Karl Ridderbusch) 1932.05.29-1997.06.21 [ドイツ]Bs
ペーター・ホフマンは、これより前に、デュッセルドルフの『ワルキューレ』で、カール・リッダーブッシュと初共演。リッダーブッシュは、1976年ザルツブルク復活祭音楽祭のコロvsカラヤン事件の「ローエングリン」では、国王役でしたが、コロと同じように不愉快な気分になり、カラヤンとは二度と仕事をしないと宣言したという話です。


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keyaki

笑えた。"こばなし"に使えそう。
by keyaki (2005-05-31 09:08) 

euridice

オペラ歌手という『人種』?! なんだか可愛いですよねぇ・・
なんて言ったら失礼かしら^^;

岡村喬生氏が腕の上げ下げの仕方みたいなことにああでもないこうでもないと、大の大人が、まじめに取り組んでいるのって、別の世界から見れば浮世離れしてる・・みたいなことを言ってたと思いますけど、なんとなくなごみますねぇ・・・ トラブル話でさえ・・
by euridice (2005-06-01 22:00) 

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