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魔弾の射手 [オペラ]

久しぶりに新しい「魔弾の射手」の映像を見ました。時代とか本来の物語には拘泥しない演出でした。このオペラ、私にとっては、どちらかと言えば、聴くだけで楽しめる物に属しています。序曲だけでも十分好きです。序曲のメロディーによる歌、♪秋の夜半の♪は、有名だと思いますが、若い世代は知らないかしら。それに、このタイトルの日本語訳、魅力的です。

「魔弾の射手」のマックス役は、2月21日の記事、オペラの演出にも引用したように、P.ホフマンにとってもレパートリーでしたが、映像はもちろん、録音もないのが残念です。写真はウィーンでのマックス@魔弾の射手

P.ホフマンの学校時代の回想に、このオペラ、このように登場します。
『音楽に関する知識について。これは学校教育ではほとんど与えられなかった。どこへいっても「魔弾の射手」症候群だった。すなわち、魔弾の射手こそがオペラである。他にはない。作曲家で、私が知っていたのは、ワーグナー、ヴェルディ、モーツァルト、これで全部だった。ヴェルディのオペラは、「アイーダ」これで終わりだ。ワーグナーは父から得た知識だったが、題名を三つ以上挙げることはできなかった。』

個人教授で勉強中の経験談
「もう絶対、何かアリアを歌いたい」と先生に迫ったとき、次の週末までに、魔弾の射手のマックスのアリアを練習してくることを、やっとのことで、許してもらえた。それを先生の前で歌ってきかせたとき、先生はなんとも言えない目をして、ピアノのふたをぱたんと閉めてしまった。私は、恐ろしいことになったと思った。 私は、声だけでなく表現も、完全に間違っていた。もちろんこのアリアは時期尚早だった。それは難しい種類のアリアというのではなく、生命を吹き込むように歌うことが難しいのだと、先生は教えてくれた。」

「魔弾の射手のマックスのアリアは、例えば、職人的な人々が、歌って、大成功できる。ただ、なんとなく良くないという感じが残る。下手な芸術家というものは、根本的に存在しない。そんな者は絶対に存在するはずがない。それに、常に変わらず芸術家だという人も存在しえない。どうしようもなく調子の悪い日がやってきて、自分の芸術を実践することができない状況に陥ったら、その時は、そんな状態でもなお公演を立派にやりとおすためには、自分が身に付けた職人芸を思い出さなければならないと思う。そういうことだから、芸術家という概念は非常に把握しにくい。なにはともあれ、芸術家というのは職業名ではないのだ。有り難いことではないか。」

ヴッパータール時代の回想
「1974年、ヴッパータールの専属としての仕事がはじまった。ここで、すでに身につけていたレパートリーを深めた。とりわけカルメンのドン・ホセ、それから、ジャンカルロ・デル・モナコの『青い』演出の魔弾の射手のマックスなどだ。そして、魔弾の射手では、いつも何か思いがけないことが起こるということを知った。それはヴッパータールだけでなく、その後の上演でも確認された。それはいつも同じ場面で、つまり有名な魔弾をつかっての射撃試験がおこなわれるときに、おこるのだった。銃声が早すぎるか、遅すぎるか、時には全然音がしないのだ。ハンブルクでは、音がしなかった。舞台助手はそういう場合のために代わりの銃を用意していたが、彼とコンタクトをとろうと必死になっている私に全然反応しない。カスパールは繰返しさっさと撃つようにと要請する。その時、この苦境を切り抜けるのに、いいことを思いついた。空を狙って、大声で『パンッ』と叫んだのだ。客は驚き、喜び、物語は先へ進むことができた。」

批評家は・・・
 「すらりとした体格、陸上競技で鍛えたたくましさ、視覚的にも若い英雄であると信じることができる。彼は、1940年代のヴォルフガング・ヴィントガッセンを彷佛とさせるが、この偉大な先輩より、今日すでに、演技的な動きははるかに達者である。彼のテノールとしての声はまぶしいほどの輝きはないが、声域のバランスとその暗く低く柔らかい響きは抜きん出ている。これはワーグナー歌手にとっては非常に重要なことだ。今回の初パルジファルに加えて、来年の3月にここでまた同じ役を歌うことになっているが、今から楽しみである。そして今度は、アンサンブルの中にまさに生まれながらのマックスがいるわけだ。魔弾の射手もまたいつか劇場のレパートリーに入れるべきときが来ることが期待される」

魔弾の射手 映像
ヴォルフ=ディーター・ハウシルト指揮、ヨアヒム・ヘルツ演出、ドレスデン国立歌劇場1985年 
詳細はこちら

インゴ・メッツマッハー指揮、ペーター・コンヴィチュニー演出 ハンブルク、クラシカジャパン06.10/ DVD(ARTHAUS)
マックス:ヨルマ・シルヴァスティ 、アガーテ:シャルロット・マルギオーノ、エンヒェン:ザビーネ・リッダーブッシュ、カスパー:アルベルト・ドーメン、隠者:サイモン・ヤン

わけのわからない場面や卑猥な部分もありますけど、なかなかおもしろいです。このオペラは、特に魔弾を造る狼谷の場が好きなのですけど、この演出でも、気に入りました。マックスの母親の亡霊とアガーテの幻影を、子どもが演じていましたが、邪悪なものと、清純なものの同居という、不安定な感じを表現して、ある意味、美しい舞台になっていました。アガーテとエンヒェンの女性二人のシーンは、ともすると退屈なのですけど、演技達者なヴィオラ奏者の登場ほか、いろいろおもしろい工夫があって、楽しかったです。隠者らしからぬ 隠者(豊かな黒髪、かっぷくよく、一見金満紳士)も、斬新でおもしろかったです。彼が客席にいることで、(アガーテの歌にブラボーを叫び、白バラの花束を投げます) 観客と舞台の交流が生じたのがなかなかな効果だったように感じました。所詮舞台ですから、舞台上の視覚的森にこだわる必要もないような気がします。キャストもなかなか似合ってると思いました 舞台にあがった楽器奏者も含めて、みんな、お芝居、上手いですね。演出、ちっとも演奏妨害していなかったと思います。(2002.2.26記)

バレンボイム指揮、ルートヴィヒスブルグ音楽祭 TV
マックス:ウーヴェ・ハイルマン、アガーテ:ナンシー・ジョンソン、カスパー:ジークムント・ニムスゲルン

デニス・ラッセル・デイヴィス指揮 アキム・フレイヤー Achim Freyer演出 シュツットガルト歌劇場1983  TV  DVD(外国版)
アガーテ:カタリーナ・リゲンツァ、マックス:トニ・クレーマー、オットカール:ヴォルフガング・シェーネ

序曲の前に、隠者が神に祈りを捧げている場面があって、アガーテとのちょっとしたお芝居があります。小鳥のさえずりなどもきこえます。アガーテはマリオネットの人形のようなメーク。登場人物も人形のような動きをします。マリオネットということなのでしょうか。それなりにおもしろいですが、人物の表情は乏しい感じです。どこで読んだのか、聞いたのか、記憶が定かではないのですが、このオペラ、かつて舞台の上に実際の狩りの獲物を並べたとかで、それが使える限りの期間連続上演したのだとか。この映像、フィナーレの舞台上に獲物が積み上げられています。本物かどうかはわかりませんけど。(2001.12.18記)
もしやと思ってビデオを捜し出しました。当たりでした。あれあれ、P.ホフマンが嫌って、演出家ともめたあげく、他の余分の5公演への出演と引き換えにプレミエへの出演を拒否したという演出に間違いなさそうですねえ。収録年から、新演出の際の映像ではなく、再演時のものだと思われます・・・   確かに絵のような舞台だと思いましたけど、歌手や合唱団の動きも、定型化されているわけです。マリオネット劇を意図しているのかと思ってました。
「演出は身振り語彙と神の救済に対する敬虔な感謝の念の素朴な表現として南ドイツ地域に今日まで生きている奉献画の比喩的な言葉を使用する。私たちは、今日においてもいまだ私たちを動かしている、崩壊と不解消性に伴う状況と気分を発見する」(アキム・フレイヤー) 絵であるべきなら、どうやって歌うのか?P.ホフマンの伝記1983年  (2005.2.25記)
P.ホフマンの話を読んだ後、改めて見るとかえっておもしろかったりします^^; 観客の反応もおもしろいです。意外なところで拍手喝采です。客席には子どもの姿もあります。この演出なら安心して子どもと一緒に楽しめますね。演出家の言葉通り、素朴な信仰心を前面に押し出しています。カーテンコールの平服のけっこう若そうな男性が演出家だと思います。(2005.2.26記)

アーノンクール指揮  ルート・ベルクハウス演出 チューリッヒ歌劇場1999  DVD(外国版)
アガーテ:インガ・ニールセン、エンヒェン:マリン・ハルテリウス Malin Hartelius、カスパー:マッティ・サルミネン、マックス:ペーター・ザイフェルト、クーノ:Werner groeschel、オットカール:Cheyne Davidson、隠者:Robert Holl、キリアン:Volker Vogel、ザミエル:Raphael Clamer

分厚い本を抱えたインテリ・マックス、ザイフェルトがとても似合ってます。猟師というより、銀行の支店長みたいではありますが。舞台も何もない抽象的だし、衣装も都会的、現代的ですから、ボヘミアの森はあえて意図していないのかもしれません。男性合唱団の顔に赤いアザ模様があるんですけど、意味がわかりません。アガーテは実際舞台なら夜目遠目で美しいのでしょうが、映像では、美人なだけに年をとった・・・って思ってしまいます。ずっと若い頃の「後宮よりの逃走」で見たことがあるので余計そう思うのでしょう。(2005.2.24記)

録音
この曲は、音だけ聴くのも好きです。序曲も大好きですし。気にいっているCDは二つあります。
C.クライバー指揮 ドレスデン1973 DG 
マックス:ペーター・シュライヤー、アガーテ:グンドラ・ヤノヴィッツ、エンヒェン:エディット・マティス、カスパー:テオ・アダム、オットカール:ベルント・ヴァイクル、クーノ:ジークフリート・フォーゲル
はじめての魔弾の射手。映像を見る前でした。

クーベリック指揮1955 バイエルン放送交響楽団1979 LONDON 
マックス:ルネ・コロ、アガーテ:ヒルデガルド・ベーレンス、エンヒェン:ヘレン・ドナート、カスパール:ペーター・メーベン、オットカール:ヴォルフガング・ブレンデル、クーノ:ライモンド・グルンバッハ、隠者:クルト・モル


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コメント 5

ヴァラリン

私も魔弾の射手は大好きです(^o^)丿
ご紹介の映像も、既に見ておりました。感想UPしなきゃね、と思いつつ、後回しでしたけど、edcさんとほぼ同様の感想です。
アガーテ、視覚的にかなり辛いですよねーー;私は初めて見たかただったんですけど、若い時はとても可愛らしかった・・と仰るの、わかりますー!
ザイフェルト氏は、今まで見た映像の中ではNo.1になりました(#^.^#)

ホフマンはね^^この役には合ってますよね!きっと^^
CDでもいいから、聴いてみたいです~(#^.^#)
by ヴァラリン (2005-02-25 01:39) 

euridice

「オペラの演出」のところで紹介した、P.ホフマンが嫌って演出家ともめたという演出、テレビで見たことがあったことが判明しました^^; 時期的に、後の再演時の映像だと思います。前に見たときはそんな話は知らなかったわけですが、マリオネット振りってわけかと思いました。伝記にもありますが、けっこう評価された演出のようです。DVD(外国版)も出てます。
by euridice (2005-02-25 17:28) 

ヴァラリン

え~~そうなんですかぁ?!ビックリ・・
ということは、もめなければホフマン様@マックスの映像が・・あったかもしれないということ??

ああーん、もめないで欲しかったわ^^;
そういえばこの映像、こちらのお店でほこりをかぶっているのを見たことが・・
by ヴァラリン (2005-02-25 23:06) 

euridice

そうね〜〜 演出嫌いじゃなければ、再演に出演ってこともあったかも・・・ アガーテはリゲンツァで、オットカールのヴォルフガング・シェーネに注目!ってとこでした。グラインドボーンの
「ルル」でシェーン博士&もの凄くぞっとする切り裂きジャックです。
by euridice (2005-02-25 23:27) 

ヴァラリン

>オットカールのヴォルフガング・シェーネに注目!

ほほ~~彼が夫カール・・じゃなくってオットカールなんですね。
ハンブルクでザックスを見ましたが、立ち居振る舞いも、歌いクチもエレガントでしたよ(^^)
見たいです。マックスは、頭の中でホフマンさまへと画像転換処理しますわ(*^^*)
by ヴァラリン (2005-02-26 09:42) 

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