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アンナ・マリア・カウフマン談 [2003年刊伝記]

「ドイツ人はペーター・ホフマンを誇りに思うべきです」
アンナ・マリア・カウフマン談

 アンナ・マリア・カウフマンは、すでに述べたように、「オペラ座の怪人」のクリスティーン役でのペーター・ホフマンとの共演と、二度の演奏旅行で、彼が高く評価していた歌手である。ペーター・ホフマンとの共演を通して、彼女自身も歌手として大きな成功をおさめている。

 「私はハンブルクで『オペラ座の怪人』のクリスティーン役のオーディションを受けましたが、ある日、最終的に私がこの役をやらせていただけることになったことを知りました。本当に幸運でした。その後で、まず私の相手役がだれなのか聞きました。ペーター・ホフマンでした。耳を疑いました。とにかく私はほんとにまだまったく無名でした。キャリアが始まったばかりの新人でした。それが、すごいスターと一緒に舞台にたつことになったのです。大感激でした。実際のところほとんど信じられないという気持ちでした。
 初対面は車の中でした。私たちは車で、ホテル四季で行われる記者会見に行くことになっていました。ペーターはすでにリムジンに乗っていて、私は彼のそばに乗り込みました。私はひどく興奮していて、彼に対してどう振る舞うべきかわかりませんでした。でも、彼は私が想像していた世界的スターとは全く違っていました。まったく自然で、ちっとも気取ったところがありませんでした。彼は私がとても緊張しているのに気がつくと、ちょっとした冗談を言って緊張をほぐしてくれました。ホテルにはおよそ200人ものジャーナリストが私たちを待ち構えていたのですから、このような落ち着いた、マスコミ通の同僚がそばにいてくれたことは、私にとって幸いでした。こんなことは、それ以前にはまだ一度も経験したことがありませんでした。その時の記者会見は本当に問題なく進みました。その後続いて写真撮影でした。私には何もかもが新しい世界でした。ペーターは始終気楽に振る舞っていました。そして、私が物おじしないように気をつかってくれました。私がまた元通り硬くなって、自信を失っていることに気がつくたびに、さりげなく腰に手を回してちょっとくすぐるので、私はつい笑ってしまったものでした。この時の写真はケースに入れて飾ってあります。
 一緒に仕事をしている間も、あんなに有名な歌手が私たちみんなの中に混ざってごく自然に振る舞うのに、何度も驚かされました。彼はまさにプロでした。いつも親切でしたし、問題があるたびに解決の手助けをしてくれました。音楽が大好きなんです。そして、若くて経験の浅い仲間たちに対して常に助言や助力を惜しまない、すばらしい芸術家です。もしかしたら『スター』然として、舞台経験のない新人を厄介だと感じる『スター』もいるのかもしれませんが、ペーターは違いました。彼と一緒だったおかげで、信じられないほどすばらしい仕事ができました。彼と共演した『オペラ座の怪人』時代は、ただただすばらしかったです。私にとってあの時期こそ、キャリアの土台だと言えます。
 ハンブルクでの契約が終わったあとも、縁が切れてしまうことはありませんでした。時々電話で話したりして、同僚としての友情にあふれた専門的な助言をもらったりしたものです。『オペラ座の怪人』に対して、ゴールドCD、プラチナCD、それからダブルプラチナCD等々、RTLの獅子賞その他、さまざまの賞を一緒に受けることができました。そのほかにも私たちは何度か一緒にテレビにも出ました。1994年には、北ドイツ放送交響管弦楽団と共に『ミュージカル・クラシック』の演奏旅行に出かけました。すばらしい経験でした。その上、大成功でした。

 ペーターの病気について知ったときは、もちろんショックでした。しかし、彼の病気とのつきあい方には、感嘆するばかりです。彼は運命を受け入れて、自分の道を更に進み続けています。大勢の人々のお手本たりうることだと思います。悲しいことですが、悪意のある人間が存在するのは世の常です。そういう人たちは何であれぶち壊そうとして、悪口を言うのです。ペーターは今もすばらしい歌手です。時に否定的なことを言われたり、書かれたりするのは、たいていは何の根拠もない卑劣な言動にすぎないのです。なぜなら、ねたみからか、もしくはたとえ別の理由があるにしても、彼のことが好きじゃない人たちもいるからです。
 1999年に、演奏旅行の同行者として、招かれました。すばらしい時間を過ごしました。病気に関しては、彼はその扱い方をよく心得ていましたから、ほとんど問題はありませんでした。彼は自分のできる範囲を知っていますし、私は常に彼を信頼していますから、彼と演奏旅行をすることに、露ほどのためらいもありませんでした。音楽と舞台、これこそが彼の全人生なのです。彼は全てをやり遂げたのですから、もうこれ以上先に進む必要はないのです。しかし、彼は自分の仕事が好きなのです。そして、今でもまだ第一級の仕事を成し遂げることができるということを証明したのです。

 私は、ドイツにおける自分の国の偉大な芸術家に対する扱いは、かなりひどいと感じています。このようなことはアメリカだったら考えられません。モハメド・アリに与えられている尊敬、応援、賞賛などを一度でいいから、しっかりと思い浮かべてもらいたいものです。アメリカ人はモハメド・アリのことを誇りに思い、絶えず応援し続けているのです。
 ドイツにとってペーター・ホフマンは実に偉大なオペラ・スターです。生きている伝説です。ドイツ人は彼のことを誇りに思い、彼を大切にし、敬意を表するべきだと思います。」
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