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パヴァロッティの跡継ぎ [オペラ歌手]

vg.jpg←ヴィットリオ・グリゴーロ
幅広い人気:天才少年だったヴィットリオ・グリゴーロのニックネームは「パヴァロッティーノ」すなわち「リトル・パヴァロッティ」である。彼はクロスオーバーで成功したが、彼が言うところの「本物のオペラ」の仕事を大事にしている。
エルザ・ガードナーによる2006年11月27日付けUSA TODAY

クロスオーバー市場は魅力的

以下、要約するのがめんどくさいので、いい加減な全訳です。

次のパヴァロッティは誰だ
30歳以下の多くの新進歌手にとって、サイモン・コーウェルの誘いは断り難いものだろう。しかし、このアメリカ人アイドル審査員で音楽ビジネスの立役者が数年前に創設したクラシック音楽を学んだ歌手たちからなるカルテットに加わってほしいとヴィットリオ・グリゴーロに懇願したとき、このイタリア人テノールは、「パヴァロッティーノ」にとって「イル・ディーヴォ」は、最良の落ち着き先ではないという決断をくだした。

4人のテノール:パヴァロッティの後継者候補
グリゴーロは、ローマで、天才少年として、ヴェルディ作曲の「トスカ」でパヴァロッティと共演したことによって、英語に訳すと「小パヴァロッティ」という意味の、このニックネーム「パヴァロッティーノ」を得た。29歳のグリゴーロは言う。
「パヴァロッティは僕にこう言った。僕が勉強して、必要なことを全部やったら、いつか最高の歌手になれる」

パヴァロッティは、大勢の若い新進テノールのリストを作っていて、数人を後継者候補と目している。しかし、パヴァロッティの後を継ぐということはここ数ヶ月中に差し迫った問題となってきている。四半世紀以上にわたって、オペラのもっとも有名な顔であり、声であった男も10月には71歳を迎え、昨年の夏見つかった膵臓癌と闘っている。7月、パヴァロッティは、2005年に始めた「さよならツアー」の延期を余儀なくされた。このコンサートは、健康が許せばだが、来年に予定されている。

ファンも歌手仲間たちもパヴァロッティの回復を願っている。
「パヴァロッティは『僕はどこにも行かない』と言うに違いない」
パヴァロッティも所属しているユニバーサル・クラシック・グループの代表であるクリス・ロバーツは言う。

キング・オブ・ハイCのキャリアの終わりが近づく中、そういう者がいるとすれば、一体だれが彼の代わりになりうるのか、多くの人が知りたがっている。パヴァロッティはその澄んだ透明な声、並外れた個性で、三大テノール仲間のドミンゴやカレーラス以上に観衆を虜にした。多分、ハリウッド・テノール、マリオ・ランツァ、あるいはエンリコ・カルーソー以降のどの男声オペラ歌手も彼にかなわない。

「次のパヴァロッティになれればうれしい。彼はオペラを全ての人に知らしめるという、大きな貢献をしたのです」
2002年、パヴァロッティの最後のメト出演になってしまったかもしれなかったあの期間にパヴァロッティの代役を務めてから、後継者候補と言われているサルヴァトーレ・リチートラは言う。

競争者と目されているのは他にマルセロ・アルバレス、ロベルト・アラーニャ。そして、最近特に注目されるのがメキシコのローランド・ビラゾンとペルーのファン・ディエゴ・フローレスである。パヴァロッティに比較すると幾分か太くて明るい声のフローレスとビラゾンはポピュラー歌手としての可能性が相当あると見られている。
それにもかかわらず、Sony BMG Masterworksの社長ギルバート・へザーウィックは彼らはこの仕事に向いていないだろうと言っている。
「より大きなマーケットへ出て成功するために必要なものはgreat charm and warmthだ」

ここ数十年間、クラシック・クロスオーバー・マーケットの成長はますます顕著になってきた。純粋主義者たちにとって、カルーソーやランツァの時代以上に、ゆゆしき問題だ。ポペラ・グループ「イル・ディーヴォ」は、アンドレア・ボチェッリやラッセル・ワトソンのようなテノールを含む一連の流れの中で、最も新しい例だ。彼らは、オペラハウスでの電気的に増幅されない声で歌うのではなく、綿密な計画の下で制作、実行される録音とコンサートを通じてキャリアを築いた。

パヴァロッティ自身が三大テノールの一人として、そして、ポップスターたちとの膨大な共同作業によって、先鋒を務めた、この流れの中にあって、新進オペラスターたちは、様々な難問に直面させられることになった。選択に正しい公式などありはしない。

マスコミやメディアへの登場はそれほど容易ではない
「今や、これら、ポップ・テノールのせいで、オペラ歌手がパヴァロッティのレベルにのし上がるのは、ますます難しくなった。パヴァロッティは、多分過去最高の美しい声に加えて、オペラ歌手がタイムズの表紙なったり、アメリカン・エクスプレスの広告をやったりできる時代にたまたま居合わせた。近頃は、マスメディアに登場することは、はるかに難しくなった。」とフローレスは言う。

1970年代と1980年代には、「クラシックの音楽とクラシックの音楽家に脚光を浴びさせることを歓迎する雰囲気が今よりも強かった。ベヴァリー・シルズがThe Tonight Showのゲストホストだったなんて、驚きだ。パヴァロッティも同じような魅力を持っていた。パヴァロッティがクロスオーバーのレコーディングをしたのは、キャリアの後半、声が衰えつつあったころになってからだった」と、The New Yorkerでこのジャンルを担当しているアレックス・ロスも認める。

Vittorioそれに対して、今日のテレビ向きの歌手は、誘惑に満ちた多様な選択肢が目の前にある。グリゴーロは「イル・ディーヴォ」を蹴ったが、オリジナル曲とポップ・クラシックの曲を集めたアルバムヴィットリオによってもっとも知られている。このレコードはこの秋発売され、クラシック・クロスオーバー・チャートで、ボチェッリの直後、つまり、ナンバー2になった。トップ40の少女グループ「Pussycat Dolls」のメンバーであるニコル・シャージンガーが一曲、デュエットで参加している。

グリゴーロはこう主張する。
「僕がしていることは、本物のオペラの仕事と勉強からそのエネルギーと生命を得ている。だから、ポップス界とつながりをもっても、本物のオペラを大事にし続けたい」

伝統的なクラシックの販路を超えようとするパヴァロッティの才能とやる気が、彼をして素晴らしい歌手から大衆の普遍的なアイドルへと進化させた原動力だったことは間違いない。

「巨大キャリアを築きたければ、大衆と何らかのつながりをもたなければならない。才能に匹敵する個性がなければならない」とロバーツは言う。

ロバーツはこういう点において、ビラゾンを売ることについて心配する必要がない。
「オペラ歌手はポップス歌手から多くのことを学べると思う。舞台に出る前にShakira や Juanes をよく聴く。彼らには特別のエネルギーがあるし、僕の中にある何か原始的でワイルドなものを目覚めさせる」とメキシコ人テノールは言う。

オペラには間違いなくセックス・アピールがある
オペラ・スターもまたその色気を売り物にしてきた。マリア・カラスからチェチリア・バルトリ、そして、2005年にビラゾンとコンビでラ・トラヴィアータを録音した官能的なロシア人ソプラノ、アンナ・ネトレプコに至るディーヴァたちがそれを証明している。

Just Before Sunrise ネイサン・ガンさらに最近では、男声歌手のセックス・アピールが強調される傾向が強まっている。テノール仲間としては、ビラゾン、フローレス、それに、アラーニャ。ピヨトル・ベチャラ。そして、バリトンのネイサン・ガン。彼らは、そこそこの若さと主演男優的魅力で注目を集めている。

その存在感と声が抜群でも、今日の新進のオペラ・アイドルは必ずといっていいほど、機能強化装置を利用することを求められる。オペラハウスでは今も忌避されているけれど、マイクの使用は外の世界では、それがそれにふさわしい環境であれば、はるかに受け入れられるようになった。例えば、今年のワールド・カップ・ファイナルで、ビラゾンは巨大な野外会場をその声で満たす必要があった。

「アンナ・ネトレプコとマエストロ・ドミンゴと一緒に、マイクを使って歌ったが、すばらしい経験だった。サッカー場に試合しに行く子供のような気分だった」

「いつだって魔法のよう」
だが、リチートラは装置使用に慎重だ。
「多くの人がマイクの声と自然の声の違いに気がつかない。オペラには魔法のようなものがある。生でこそ、そしてその瞬間だけに、何かが生じる」
ロスはこの魔法は多くの人が思っているよりも容易に得られるものだと言う。
「アメリカ中には、ものすごくたくさんのオペラハウスがあるし、メトのチケットは15ドル以下で手に入れられる」

メトの新総裁、10年間ソニーのクラシック部門を率いていたピーター・ゲルブは、より多くのファンを獲得するために新しい試みを始めた。その中には、映画館やシリウス・サテライト・ラジオでオペラ公演を上映、放送する計画がある。また、オペラはしかめつらしい、エリートのものだという認識と戦うために、最新流行に強い演出家や歌手を採用している。

「私がレコード業界で働いていたから、メトをクロスオーバー歌手でいっぱいにしようとしているのだろうと心配している人もいる。しかし、美しく歌えるのと同じぐらい演じることもできる、実に素晴らしい若いオペラ・スター世代が存在するから、彼らの才能を引き受けたいというのが本当のところだ。」とゲルブは言う。

それでも、XMサテライト・ラジオのクラシック番組のディレクターであるマーチン・ゴールドスミスは、だれにしろパヴァロッティほどの成功を望んでも、それは無理だと認める。

「クラシック音楽の終焉は、今日まで、長い間、予言されていたが、それはたいていは実際より誇張されていた。しかし、クラシック音楽は相変わらず少数の趣味であり続けるだろう」とゴールドスミスは言う。

今日の若いテノールたちがパヴァロッティに代わることはできないとしても、彼らがパヴァロッティの足跡を辿ろうと熱望しているのは明らかだ。

『パヴァロッティはテノールのトレードマークのようなものになったが、それが彼の目標だったとは思わない。観客と拍手喝采こそが、我々に必要なものだ。そうでなければ、シャワーを浴びながら歌えばよいことになる。目標は芸術的なものだ。人物を創造し、物語を伝えることだ。そして、当然ながら、楽しむことだ」とビラゾンは言う。



rosinaさんのところで、グリゴーロの歌うE lucevan stelleを聴かせていただき、とても気に入りました。比べたら、それはもちろん、違うし、違うのが当然なのですが、出だしが耳に入った一瞬、ペーター・ホフマンとそこはかとない共通性を感じさせられる声でした。言うならクロスオーバーということになるのでしょうのアルバム「モニュメンツ」1988年に、編曲されたこの歌が入っていますので、載せます。

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keyaki

面白かったです。ベチャラと"着ても歌えますの"ネイサン・ガンは意外です。
アラーニャは、非クラシック系からオペラ歌手への上昇組ですよね。
私も知っているオペラ歌手が記事に登場していますが、ヴィットリオ・グリゴーロのアルバム発売を切っ掛けに書いた記事のようですね。ということは、日本以外では、かなり注目されているわけですね。
日本では、ここ界隈だけのようですけど....(笑
私のブログの記事のどれかをTBさせていただきますので、承認よろしくお願いします。
by keyaki (2008-07-09 14:55) 

rosina

英訳お疲れさまでした。 とっても興味深く拝読させて頂きました。
クラシックと非クラシックとの距離は、いわゆる純粋主義者が思っている程遠くはないと言う事ですよね。私はグリゴーロ君の事をkeyakiさんのところで聴いて、聴いてみたら一気に気に入ってしまいました。今ではファンの端くれだと思っている程です。私ももしよろしければこちらとトラックバックさせて頂けたら幸いです。
by rosina (2008-07-09 21:46) 

euridice

keyaki さん
TB、ありがとうございます。ほぼ同じ時期の記事ですね。
あちらでは非常に注目されているということだと思います。

いまやインターネット時代ですし、
最近、音楽関係の活字世界とご無沙汰なので実際どうなのかわかりませんが、
こういった情報は、日本の活字世界では、
かつては数年どころか十年は遅れる感じでした。


by euridice (2008-07-10 06:24) 

euridice

rosinaさん、
読みたいと思わせられる記事はめんどうがらずに読めますね^^+
TB、ありがとうございます。

>クラシックと非クラシックとの距離
どちらも音楽ですものね。
オペラに興味を持ってから、その「声」が究極まで「訓練されたもの」
であることを認識しました。
そして、クラシック、中でもオペラでもっとも重要なのはその「声」
で、非クラシックの場合は「強烈な個性」が最優先ということでしょう。

両方あれば、両方で一流になれるのは当然のことだと思います。

by euridice (2008-07-10 08:09) 

ななこ

究極まで訓練された声の魔力を求め続けてきた者としてはオペラ歌手によるクロスオーバーの曲は初めは心地よく聞けますが、聴き続けてるうちにどれも同じように感じて飽いてきます。
でも人間の声の凄さを広く知ってもらうために力のあるオペラ歌手がクロスオーバージャンルにどんどん進出することは歓迎です。

巨大ホールや野外でマイク使ってガンガン盛り上がるのは当然で、こういうのは私自身はあまり趣味ではありません。
非クラシックで強烈な個性で声だけで惹きつけるのは今のところホフマン以外知りません。

ただ、グリゴーロに関してはユーチューブで少し見た印象ではビジュアル系でアクティブで声そのものも美しくエンターテイナーとしての素質は揃っていると思いました。
オペラでの実舞台、あるいは正規の映像、放送なりで見られるようになるのを心待ちしています。
喜怒哀楽の極限を体現するにはまだまだ?・・・と今は思います。

by ななこ (2008-07-10 10:57) 

蘭丸

翻訳お疲れ様です。自分は英語も日本語も訳するのが苦手なので翻訳家とか通訳の人達はいつも凄いなと思ってます。

>サイモン・コーウェル
アメリカ人アイドルは人気番組なのでチラッと観た事があります。この超毒舌の嫌な奴がこのような企画もしてたのですね。

>パヴァロッティの後継者
もし誰か一人予想しろと言われたら自分なら元々ポップ歌手志望だったフローレスですが正直後継者がいなくても問題なしと思ってます。3大テノールもクロスオーバーも確かに楽しめますがオペラに関心のない層が、このジャンルを聴いてもオペラハウスには足を運ぶとも思ってません。パヴァロッティは声も綺麗でしたがクロスオーバーの分野を開拓したせいもあり有名になりました、現代のイケメン志向だったらあの体格では難しかったかもしれませんね。

自分はチェチリア・バルトリが以外でした。それとも彼女若かった時はもっと魅力があったのかな?



by 蘭丸 (2008-07-10 15:56) 

euridice

蘭丸さん、どうも・・
>訳するのが苦手
訳というのはただ読むのとは違う作業ですからね・・
いちいち訳していたら、日常の用にはたちません^^;
思うに日本の外国語教育(現在は違うのかもしれませんけど・・)は
ごく初歩から翻訳に傾いてしまうのが
外国語が苦手になる一因ではないかと思います。
外国語習得と翻訳は別物と認識するべきだと思います。

>嫌な奴
なんたらスター誕生番組みたいなのをユーチューブで見ましたが、
たしかに「やなやつ」ですね^^::

>チェチリア・バルトリが
ベチャラとかガンとかも、この女性評論記者?さんの好みでしょうね。
今どう見えるか、意図的だったかどうかは別として、バルトリも「女!」という感じが強烈な歌手だと思います。



by euridice (2008-07-11 06:22) 

euridice

ななこさん
>エンターテイナーとしての素質は揃っている
オペラを主役でじっくり味わいたいものです。

>オペラ歌手によるクロスオーバーの曲は
ホフマンのは「クロスオーバーの曲」かどうかはおいておいて、未だに秋風も吹かず新鮮ですから、「歌手」によると言えそうです。

「クロスオーバー歌手」によるのは、たしかに秋風がすぐ吹くようですし、下手すると初めから退屈しちゃうこともなきにしもあらず・・です。
by euridice (2008-07-11 06:35) 

サト

7月23日 ビラゾンは非常に好調で、元気に歌って居て、楽しく聴いていたが、終わり近くで、急に声の調子がおかしくなり、聴いてて、心配でした。 その日は楽屋口から出て来ないで、既に帰ったとゆう話です。再起出来るか、今後が心配です。情報が知りたい。
by サト (2012-08-05 05:05) 

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