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出会いまで〜オペラへ(2) [PH]

さて、CD全曲をまず聴いたのが、ワーグナーのニーベルンクの指環でした。なぜでしょうか。ヴィスコンティの映画ルートヴィッヒ/神々の黄昏が気に入って、後のオペラ鑑賞並みに繰り返し見ていたこと。「ニーベルゲンの歌」「北欧神話」「アーサー王と円卓の騎士」などが子ども時代から好きで、記憶に残っていたこと。要するに心をひかれる物語があって、それを題材にしたオペラということで、興味を持ったということでしょうか。ワーグナーの音楽には、ヒットラー絡みのそこはかとない偏見だけがありましたから、実際に意識して聴いたときの新鮮さは、ある意味、もの凄かったというべきでしょう。偏見は一瞬にして粉砕されました。偏見と言っても、はっきりとしたものではなく、ワーグナーの音楽というのは、大音響の行進曲的なものだろうといった程度でしたが、ナチズムに関連して、無意識に敬遠する部分があったのだろうと思います。そういう人、けっこういるような気がします。

余談ですが、ずっと後にテレビで「ヒットラーがワーグナーに命じて作曲させた」という発言を耳にして、仰天したことがあります。サリン事件であのカルト集団が注目されていたころで、音楽の持つ影響力について語っていた番組だったと思います。

最初に聴いた「ニーベルンクの指環」は全曲で最安値というだけで、音が悪いかもしれないと思いつつ買った、クレメンス・クラウス指揮のバイロイト音楽祭ライヴ。筋はアーサー・ラッカムの挿絵の入った本(新書館)でざっと読みました。細かいことは無視、全体的に好きな音楽だということはすぐにわかりました。でも、何度も聴こうとは思いませんでした。やはり音質が一番の原因だったかと思います。ワーグナーの音楽とは相性がいいというわけで、次はやはり新書館の本で読んでみた物語から、ローエングリンを聴きたいと思いました。これも選択理由は値段ですが、今度は音質も重視して、新しいスタジオ録音、カラヤン盤*註)にしました。これはほんとに気に入って繰り返し聴きました。聴かない日はないというくらい、のめり込みました。美しさに唖然という感じでした。

*註)
1976年ザルツブルク復活祭音楽祭の上演とほぼ同じキャストで録音されたもの(舞台と違うのは、オルトルートと合唱団)で、ベルリン・フィル、ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団、ローエングリン:ルネ・コロ、エルザ:アンナ・トモワ・シントウ、オルトルート:ドーニャ・ヴェイソヴィチ、テルラムント:ジークムント・ニムスゲルン、ハインリッヒ王:カール・リーダーブッシュ、伝令:ロバート・カーンズ。この年はこの音楽祭の十周年記念で、このローエングリンはカラヤンの初演出だったとか。ところが、カラヤンとコロのトラブルで、前年から録音に入っていた、このCDの完成、発売は1981年になったそうです。

参考:
『   1976年はテノール(ルネ・コロ)の人生のおいて、職業的な大成功と個人的混乱の年であった。娘のオリヴィア・ナタリーをもうけた、彼の九年に渡るDortheとの結婚生活はこの年離婚という結果に終った。この苦い経験について、コロは後にインタビューでこう語っている。もう一度結婚するとしたら、私のために時間を割ける女性としたい。 結婚生活が破綻した理由が何であれ、コロは、間違いなく、加速的に増大するオペラの仕事とそれに伴う猛スピードで変化するライフスタイルのプレッシャーに苦しんでいた。慢性化した喉頭炎によって、彼は緊張感を募らせていた。このようなわけで、1976年の春、カラヤンのためにローエングリンを演じるべくザルツブルクに行ったときには、彼は感情的にも、おそらくは声も、絶好調ではなかった。リハーサル期間は荒れ模様だった。カラヤンもまた病後で、いらいらしやすい状態だった。カラヤンの専横的なやり方は縛られることの嫌いなコロの神経に障った。後にコロは、この申し出を引き受ける前に、注意深くよく考えた上で彼自身の解釈を指揮者に話してあったにもかかわらず、カラヤンがコロの考えに同意していないということがリハーサル期間に明らかになったのだと明言した。指揮者と話し合うことができないなら、家に帰るしかない  とコロはオペラ界誌に話した。 初日の批評は良くなかった。コロは、二回目の上演の二時間前に、「喉の不具合」という理由で、残りの契約をキャンセルし、荷物をまとめたときには、かなり動揺しており、シュトゥットガルト・ニュースに連絡して、事の経緯に関して自分の立場を弁明した。彼は、スター指揮者兼演出家がしゃしゃり出るのにはうんざりだ。ドイツ語圏にはローエングリンを歌えるテノールは五人しかいないが、ローエングリンを指揮できる指揮者は五千人はいるだろう と言った。マスコミにとって、この一件は、すばらしい出来事だった。二人の音楽界の巨匠の騒動は、大分冷静になったコロがあるインタビュアーに、私はカラヤンがとても好きだ。ただ単に仕事は一緒にできないというだけだ との、もってまわった賛辞を付け加えつつ、カラヤンの話はマスコミによって大袈裟に吹聴されたものだ と語るまで数カ月も荒れ狂った。』WE NEED A HERO 1989 より引用・・・次へ


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コメント 3

おさかな♪

「トリスタン」って、円卓の騎士の一人なんですね・・・。知りませんでした。
by おさかな♪ (2005-05-17 20:30) 

euridice

よく覚えていないんですけどね、トリスタン伝説もいろいろあるみたいです。ワーグナーの諸作品が裏書きになってるのかしらと思えるようなアーサー王伝説の映画があります。「エクスカリバー」ジョン・ブアマン 監督です。ワーグナーの音楽満載です。
by euridice (2005-05-17 21:35) 

王退散

> 余談ですが、ずっと後にテレビで「ヒットラーがワーグナーに命じて作曲させた」という発言を耳にして、仰天したことがあります。
--
ワーグナー(1813-1883)
ヒトラー(1889-1945)
どうやってヒトラーがワーグナーに命じたのでしょうか?本当に仰天ですね。
by 王退散 (2005-12-04 08:51) 

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