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新国立劇場オペラ公演「ルル」 [劇場通い]

予定の三幕版から二幕版に変更になり、話題騒然の公演。平日の昼公演はいいのですが、二時という時間帯は私にとって思わぬ伏兵が。仕事でもない限り、二時半というのはちょうど睡魔に襲われる時間なのです。案の定、一幕の途中猛烈な睡魔が。

それはともかく、なかなか楽しめました。現代音楽によるオペラ、生の舞台ははじめてでしたから、新鮮だったのでしょう。
あちこちカットがあって、筋の脈絡が弱まったり、印象が希薄になった部分があったようなのは残念でした。

ヒロインの声は他の人たちと比べて、かなり異質な感じを受けました。様式感が違うというか。そのせいで声による表現が弱くなってあのヒロインの持つべき、演出家のコメントにもある『強烈な性的エネルギー』は感じられませんでした。それでも、勢いに欠けるというか迫力不足の感ありでしたけど、演技的にもお芝居としてしらけるなんてことはなかったし、身体も柔軟。シェーン博士との背格好のバランスが美しかったです。オペラ標準を超えた背の高さとスタイルの良さは、やはり長所だと思います。それにごてごてした豪華なドレスより、シンプルな今回のような衣装が似合います。フィナーレの切り裂きジャックとルルの図は特に印象的でした。

シェーン博士の留守をねらってルル崇拝者たちが集まってくる場面は、コミカルで楽しかったです。伯爵令嬢は目にも耳にも非常に魅力的でした。二幕版のため出番が少なかったのが残念です。力業師、高校生、召使い、シゴルヒも印象的でした。

終わりのほうの音楽、やっぱり胸にズンと来ました。感情を高揚させる作用があるみたいです。

再演されたら、また見たいと思います。『強烈な性的エネルギーを放つ』ルルで。

ルル:佐藤 しのぶ
シェーン博士/切り裂きジャック: クラウディオ・オテッリ
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢:小山 由美
劇場の衣裳係/ギムナジウムの学生:山下牧子
シゴルヒ:ハルトムート・ヴェルカー
アルヴァ:高橋 淳
力業師:妻屋秀和
画家:高野二郎
公爵/従僕:加茂下 稔
劇場支配人:工藤 博
演出:デヴィッド・パウントニー
指揮:シュテファン・アントン・レック

参照

※ ※ ※
以下、「ルル」に関するとりとめのない感想です。 

ベルクのオペラ、実際の舞台を見たのは、はじめてです。これまでに三種類の映像を視聴しました。
この公演、上演発表当時から、ヒロイン役がミスキャストではないかという懸念が語られていましたが、初日の数週間前に予定されていた三幕版を二幕版に変更するとの発表があり、ネット上掲示板などでは、話題騒然、喧々囂々という状態になりました。週刊誌、新聞などでも取り上げられました。
そんな中の公演でしたが、おもしろかったです。一幕後半、睡魔に襲われたのは、上演時間のせいもあったと思います。ちょうど眠くなる時間帯です。それにしても、画家との結婚生活がかなりカットされていて、ルルのシェーン博士に対する思いがきわだってあらわになる、博士の婚約通知の手紙の場面がないのはとっても残念でした。
二幕は一段とおもしろくなります。多少カットがあったのか、印象が薄れるというか、物語の連続性が 途絶える部分があったような気がしますが、定かではないです。シェーン博士が取引所に出かけた留守に三々五々集まってくるルル崇拝者たちは笑えました。筋肉マンの力技師?、高校生、シゴルヒ、伯爵令嬢、召使い、アルヴァたち、まるでメゾン一刻の京子さん崇拝者たちの乗り。喜劇俳優、妻屋さん、とても素敵です。フィナーレは、やっぱり胸にズンと来るものがありました。あの辺りの音楽、プッチーニ並の情緒高揚効果があるようです。
上演前から気の毒なほど貶されているヒロイン、ルルですが、「強烈な官能的エネルギーを放つ」にはほど遠かったみたいですが、そんなルルが得られる公演なんて僥倖みたいなものかもしれません。声と歌は、他の出演者と、かなり異質な印象を受けました。シェーン博士との背格好のバランスはとってもよくて、美しいシルエットでした。この二人、切り裂きジャックとルルの場面が一番印象的。
このオペラ、是非また見たいと思いました。『強烈な性的エネルギーを放つ』ルルで。 

版の変更で、公演前に話題騒然だったお陰でしょうか、めずらしく劇場へ行く前にじっくりと映像を視聴。すっかりこのオペラになじんでしまい、とても気にいってしまいました。音楽的にも聴きにくいなんて思ったのがうそみたいです。現金なものですね。

三種類の映像視聴の感想もここにまとめておきます。三つのうち、一番新しいチューリッヒ歌劇場公演が二幕版、他の二つは三幕版です。三幕版のほうが通俗的でわかりやすいというか、予備知識無しの初体験でも、三幕後半に至って急転直下、なんというかじ〜〜んと来て、ルルに感情移入してしまいました。二幕版はフィナーレは同じですが、ストーリー知らないと筋の展開を把握するのが難しいかもしれません。
二幕までは、喜劇的な雰囲気もあって、笑ってしまうところも多々ありますが、三幕は、とにかく胸がいっぱいになるというか、泣けます。重いです。「男を虜にする悪女」という惹句にとらわれていると、少なくとも私はこのオペラ納得しにくいものがあります。三幕のゲシュヴィッツ伯爵令嬢の台詞「女性の権利のために働きたい」を主題ととらえるほうがしっくりきます。ゲシュヴィッツ伯爵令嬢、女性の権利のために働こうと志を立てた直後殺されてしまうなんて・・・  二人の男(養父?&アルヴァ)と自分を危険極まりない売春で養っているルルに胸が塞がります・・  切り裂きジャックは、何度見てもぞっとして、背筋が凍るような感じがします。このジャック、本当に恐ろしいです。
女性がその生命と自尊心をかけて、自分と家族を養わなければならない現実はいつまでたってもなくならない。彼女の生命を奪うものは、そういう女性を軽蔑しつつ利用する男性、そして、病気。昨夜、たまたまテレビで見てしまった、エイズの危険にさらされているそういう女性たちの姿にルルが重なりました。結婚も、五十歩百歩です。気が重くなります。どこかに出口はあるのでしょうか。
音楽そのものも聞き慣れると、これが感情をあおっている要因のひとつだということがよくわかります。(2005.2.21記)

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コメント 5

Esclarmonde

やっぱりワイングラスの件はしのぶちゃんのアドリブなのね.
だとしたら歌はともかく,たいした演技力じゃないでしょうか.
by Esclarmonde (2005-02-18 21:30) 

euridice

せっかくの演技力、歌が足ひっぱって、惜しいと思います。
by euridice (2005-02-18 21:39) 

keyaki

演技力といっても、言葉に反応してないかんじは否めませんね。オテッリさんの動きと比べれば、一目瞭然。
再演は、ルル&シェーン博士、両方あちらから連れて来て頂きたいわ。
by keyaki (2005-02-18 21:47) 

euridice

>言葉に反応してない
正に、歌が足をひっぱったてことは、そういうことも含んでるわけです。
by euridice (2005-02-18 21:55) 

moominpap aus wien

まず ルルのキャスティング ミスだと思います。グルベローバの舞台を何回も見ていると 今回のルルはデリケートさに欠けるのです。知名度のみで動員を図るキャスティングが オペラの質をだめにすると思います
by moominpap aus wien (2005-04-01 21:16) 

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